日本でいちばん古いラブレター『女と男の万葉集』

 「万葉集」は日本に存在する中で最も古い歌集です。
天皇や貴族、柿本人麻呂や大伴家持らの歌だけではなく、
無名の官人や庶民の歌が4516首集められています。
 内容は、季節や風景を愛でる雑歌から、東国地方の民謡ともいえる東歌や
死者に捧げられる挽歌など多岐にわたります。
 本書では、中でも相聞歌とよばれる男女の恋愛歌が、
現代訳と共に収録されています。その中からいくつかの歌をご紹介。

    「恋ひ死なむ そこも同じそ 何せむに 人目人言 言痛み我せむ」
 こちらは大伴家持が生涯の伴侶となる坂上大嬢を想った歌で、
訳は「恋死ぬこともあなたと会えない苦しみと同じこと どうして人目や噂に傷ついたりしようか」。
この歌のように、万葉集には人目を避けなければならない苦しみを歌ったものが非常に多いです。
それは身分違いの許されぬ恋であったり、噂が広がることの煩わしさを避けたりすることのほか、
当時は他人に自分の恋を知られてしまうとその恋は成就しないということが信じられていたからだそうです。

 もちろん、恋の情熱を熱く詠みあげる歌も存在します。
    「朝寝髪 我れは梳らじ 愛はしき 君が手枕 触れてしものを」
 訳は「朝の寝乱れた髪に私は櫛を通したりしない。愛するあなたの手が触れたものだから」。
 これは現代にも通じる歌で、「朝寝髪」や「手枕」という表現には、
ふたりが愛を確かめ合った夜を想うことができるでしょう。

 当たり前かもしれませんが、七世紀後半の男女も、現代と同じように
恋をした相手に切なさや愛おしさを感じていたのです。
万葉集を通じて、恋という感情は人間にとって永遠に消えることはない、
なくてはならないものなのだということを改めて読み取ることができますね。

書名:『女と男の万葉集』
著者:桜川ちはや
発行:阪急コミュニケーションズ
価格:¥1680

Text/AM編集部