発売禁止処分となり、世間を騒がせた問題作『ヰタ・セクスアリス』

ヰタ・セクスアリス 森鴎外 新潮文庫 Nude_V2 (0.00.00.00) By klaasverpoest

 著者は明治の文豪として知られる森鴎外。タイトルの『ヰタ・セクスアリス』は、ラテン語で性欲的生活を意味するvita sexualisからきており、主人公・哲学講師の金井湛による幼年期から青年期までの性的な体験を告白する短編小説です。

 主人公の金井湛はある日、自分の性欲の歴史について書いてみようと思い立ちます。とはいえ、性行為についての描写があるわけではありません。 6歳のときに見た絵草紙の話から始まり、郷里で過ごした幼年時代の性にまつわる思い出として、近所の家に遊びに行ってそこのおばさんに春画を見せられたとか、近所の女の子とお医者さんごっこをして遊んだとか他愛のないものですが…10歳のときに父と共に上京し、ドイツ語を教える私立学校に入学、そこで初めて性の洗礼を受けます。しかも、相手は女ではなく、男でした。当時、東京の学生の間では男色が流行していて、上級生から性の対象として見られ、誘惑されるのです…。
一見テーマとして敬遠されがちな「性」を哲学者の視点で冷静に事実を淡々とかき連ねていきます。

当時掲載された小説すばるでは、ポルノグラフィー扱いを受け発売禁止処分となり世間を沸かせた問題作。鴎外は青少向けの啓蒙の書として書いたつもりだったみたいですが、卑猥な小説とみられてしまったのです。読んでみると十分に抑制された文章で、卑猥な箇所などまったくないのですが、当時は、性的な事柄をテーマにしただけでも発禁になる時代だったのです。鴎外が語る性欲的生活、あなたはどう受け止める?

本のタイトルとか

書名:『ヰタ・セクスアリス』
著者:森鴎外
発行:新潮文庫
価格:¥389(税込)

Text/Yuuko Ujiie