幸せ十人十色

好きな人に出会う前、自分がどんな風に毎日を過ごしていたかわからなくなる時がある。なんなら「あの人と出会うまで、本当の幸せを知らなかった」という人だっている。でも、それは多分間違いで、好きな人に出会う前から私たちは今日と同じように生きてきた。時が止まってほしいと思うほどの幸せも、死んでしまいたいと思うくらいの悲しみも、好きな人に出会う前から隣にあったはずだ。忘れてしまっているだけで。

パリでお寿司を食べた時、びっくりするくらいマズかった。なんか、シャリがギッチギチで芋虫みたいで、サーモンは美味しいんだけど、とにかくシャリがダメなのだ。あとお醤油も不思議な味がした。わたしは「これは“フランスのお寿司”であって“お寿司”ではない」と思った。スシローが恋しかった。スシローもくら寿司もすしざんまいもある日本に生まれて、幸せだなぁと思った。

周りを見渡すと、いろんな国の人が美味しそうに“フランスのお寿司”を頬張っていた。その時思ったのは「どちらが幸せなんだろう」ということ。寿司屋に囲まれた国に生まれて、いつでも美味しいお寿司を食べられる自分を幸せだと思っていたけど、今ここ、フランスのお寿司屋さんにいる状況をとってみれば、“フランスのお寿司”を“お寿司”と疑いなく美味しいと感じている人達の方が幸福度は高い。そう考えると、幸せってのはそのまま自分の価値観でしかないのだ。

あの人を好きって決めたのは私

幸せになるために必要なのは、高価なプレゼントとかロマンチックなデートじゃない。周りからの羨望の眼差しでもなければ、たぶん両思いでもない。必要なのは誰とも何とも比べないことで、極端な言い方をすれば、「今ここにある自分だけの世界」を信じることが幸せへの鍵だ。

過去の自分の世界と比べるのもやめておいた方がいい。それで幸せを感じられる時もあるだろうけど、そのせいで不幸せを感じてしまう日が絶対に来る。今の自分とそれ以外を比較してもろくなことないのだ。

だって、どうしたってわたしは今ここにしかいなくて、好きな人もただそこにしかいないのだ。そうやって、今のわたしがあの人に恋をしたんだから。腹をくくってそのまま愛する覚悟を決めた方が、きっと幸福度は高い。自分で決めたことだから。

好きな人がいる人はどっしり腹をくくって、いない人は、腹をくくる覚悟を決めて、2019年も逞しく生きていきましょう。

Text/長井短

次回は<「愛していればなんでもできる」それって本当に愛だっけ?>です。
両想いになったらキスしてセックスをするって誰が決めたの? 恋愛に当たり前みたいについてくる性的なことに、疑問をもってもいいんじゃない? みんなと同じにすることばかり考えないで、二人なりの付き合い方を見つけたらいいと思うんです。