おひとり旅が結んだ有難い縁

「うちに使ってない車があるから、それに乗るといいよ」

……はい?
今、なんて……?

あなたと私は、今さっきこの店で会ったばかりで、名前も教えたかどうだか覚えてないような仲ですよ。店に来てメニューにないものを頼むようなワガママな客ですよ。まして、和久井の運転スキルがどうなのか、ぜんぜん未知数ですよね……! いいんですかそんなこと言って!!

「駐車場に置いてあるから。キーはバンパーの裏に隠してあるから、それで開けて」

いちおう日本人らしく一度は辞退してみました、が、たいへんたいへん有難いお申し出だったので、素直にお受けしました。
和久井はマイカーマニュアルの、たいそうな運転好きなので技術は心配ありません

翌日、指定の駐車場に行き、教わったナンバーの車を発見。バンパーの裏からキーを取り出し、車に乗り込みました。
気分はもう車泥棒です。
これで間違った車に乗ってたら、間違いなく捕まります。念のため、キーと車を写メして「お借りします」とメールしました。

おかげで、和多都美神社だけでなく、絶滅の危機にある対州馬のいる「あそうベイパーク」や、日露戦争時代の遺産である要塞、温泉など、バスではとうてい行けなかった場所をいくつも楽しめました。とはいえ、保険がどうなってるかわからないので、運転はけっこう用心しましたが。

おひとり旅の最中には、こんなドラマみたいなラッキーに出会うこともあります。
車を貸して下さった方は、こう言っていました。

「対馬でいい思いをして帰って欲しい」

この一言で、車をお借りしようと心が決まりました。
もうなるようになれ、存分に対馬を満喫して、この体験を口伝するんだ。
どこかにこの体験を書こうと思ってたんですが、ようやく公開できてよかった。

実際に現地に行くまで、対馬が鉄砲伝来の島だと思っていたことは、少々ヒミツです。

Text/和久井香菜子

※2017年5月17日に「SOLO」で掲載しました