カノンの信仰は萌え狂うオタクと一緒

米代:私はテンプレートの恋愛しかわからないので、担当さんの意見は本当に参考になってます。最近も、担当さんから聞いた、初めて付き合った人にやさしくされて嬉しかったエピソードをすごく素敵だなと思って内容に取り入れようとしたんですけど、よく考えたら「私、人にやさしくされたことないな」と思ってすごく落ち込み、該当シーンをあまり長く描けなかった、ということがありました。私だってそういう絶対的な承認を人から得たい!って思っちゃって……。

――米代さんは、恋愛の両思いは「承認しあえている」状態だと思っている?

米代:両思いというのは、精神的であれ肉体的であれ、いま自分にとって相手が必要だと提示しあっている状態かなと思っていて、そこに発生しているのは「承認」かなと考えています。

――それでいうと、1巻のかのんは承認を求めている状態ではないですよね。

米代:自分が境とどうこうなるとは一切思ってないからですよね。生身の境は手に入らないから、その表層をかきあつめている女の子のイメージで描きました。

――それ自体は米代さんにも身に覚えがある?

米代:というかアレは、オタクが好きなものに萌え狂っているときの姿なんですよね。私はものすごくオタクなので、かのんの境への思いが「信仰」である段階では、難なく描くことができました。
読者の方にもそのあたりは伝わったらしく、1巻ではジャニオタの方からの感想も多かったです。「かのんの気持ち、よくわかる!」と。けれど2巻のかのんはもっと生身の境に承認されようとしていて、「恋愛」に移っていくので、描いていて本当に大変でした。

(第3回につづく)

米代恭(よねしろ きょう)
1991年生まれ。2012年、アフタヌーン四季賞佳作『いつかのあの子』でデビュー。
既刊単行本に、性に悩む二人の青年の葛藤と成長をみずみずしく描いた『おとこのことおんなのこ』(太田出版、2013年)、友達代行サービスを生業とする青年が不登校の女子中学生のペットとなる『僕は犬』(秋田書店、2014年)があり、2015年より『月刊!スピリッツ』において『あげくの果てのカノン』(小学館、1巻・2巻 続刊)を連載中。
芥川賞作家・村田沙耶香、押見修造、志村貴子らが絶賛する、みずみずしい感性に注目が集まる気鋭の女性作家。

Text/ひらりさ
編集者/ライター。BL・女性向けコンテンツを中心に取材・執筆する平成元年生まれの腐女子。