経験を思考で補って恋愛を描く
――今まで恋愛を中心にした作品にはまったことはあるんですか?
米代:作品として読むのは好きです。でも自分で描くときは、恋愛は恋愛だけども絶対成就しない片思いの話ばっかりずっと描いていますね。ラブラブな話もおもしろく読めるしかわいいなとも感じるんですけど、それを自分でやろうとするとステレオタイプな内容になってしまう。
――2巻では、境との関係に悩んだかのんが、スタンダールの『恋愛論』を読んでいました。
米代:『恋愛論』はですね、まさに私が読んだんです(笑)。4話以降ずっと描くのがつらくて、6話でいよいよ原稿を落としそうになったときに、これは自分の数少ない恋愛体験や人に聞いた話だけじゃダメだ、勉強しないとダメだと思い立って、本屋に行って恋愛の本を何冊も買ったんです。
担当:「こもって勉強します」という連絡が来て、さすがにびっくりしました(笑)。
米代:もうわからないことが多すぎるんですもん。ニュースで芸能人カップルの熱愛報道が出ると「共通の友人を介して交際スタート」なんて書かれているじゃないですか。私はあれを見るとイライラしてしまう。具体的にどういうアクションをとったか教えてほしいんですよ。こういうキャラクターの人間とこういうキャラクターの人間がいて、どういうアプローチをしたうえでつきあったのかをもっと詳細に知りたい……。
――たしかに経験はないかもしれないけれど、そのぶん「恋愛」について考えに考え抜いて描いている、ということですね。
米代:そうですね。経験はないぶん思考することで、これまでになかった「恋愛」が描けているならいいなと思っています。
米代恭(よねしろ きょう)
1991年生まれ。2012年、アフタヌーン四季賞佳作『いつかのあの子』でデビュー。
既刊単行本に、性に悩む二人の青年の葛藤と成長をみずみずしく描いた『おとこのことおんなのこ』(太田出版、2013年)、友達代行サービスを生業とする青年が不登校の女子中学生のペットとなる『僕は犬』(秋田書店、2014年)があり、2015年より『月刊!スピリッツ』において『あげくの果てのカノン』(小学館、1巻・2巻 続刊)を連載中。
芥川賞作家・村田沙耶香、押見修造、志村貴子らが絶賛する、みずみずしい感性に注目が集まる気鋭の女性作家。
Text/ひらりさ
編集者/ライター。BL・女性向けコンテンツを中心に取材・執筆する平成元年生まれの腐女子。