何かが始まるワクワク感がたまらない

山田:そっか。ちょっと大変だね、「我慢代の負債」がたまっていっちゃうから。
ところで、もし100億あったらはあちゅうさんはどうする?それでも働く?

はあちゅう:働きます。
100億円誰かにパッともらったとしても、家でネット見るくらいしかすることなさそうですし。
そう考えたら、ネットを見る自由を持ちながら、自分で人生を開拓している今って、100億円分の価値があると思うんですよ。

山田:わかった。はあちゅうさんにとって、お金っていうのは何らかの価値の数値化っていうことだけであって、欲しいのはお金そのものじゃないんですね。

はあちゅう:そうですね。ブランドものとか、車とか、ほしいものってそんなになくて。快適な場所に住みたいっていう欲はありますが、物欲はそこまでないです。
それに、自分で稼ぐのが楽しいんですよ。自分の世間の評価だったり、頑張ったことの証として、それが数値っていう目に見える形になるのが楽しいんです。けれど、そのお金を使って何かしたいっていうのは、そこまでないですね。どこかに食べに行っても、これを本に出来ないかなって思っちゃうくらいなので。そんなにパーッと使うっていうのはないです。

山田:自分の行動や頑張った分をお金が数値化してくれているって感じ?

はあちゅう:そうですね。お金とか、本だと、部数。ウェブだと閲覧数です。

山田:「はあちゅう、頑張ってるね」っていうみんなの声が数字となって表れる感覚なんですね。だから「いいね」みたいな拍手がないと、落ち込むんですね。

はあちゅう:落ち込みますね。
山田さんはどうですか?100億円もらったら働きますか。

山田:僕の場合は「これで生活の心配をしないで好きなことできるな」って思うだけで、やりたいことを今まで通りやりますね。今は生活の心配を抱えつつやってるんで。

はあちゅう:え!今なんか心配してますか?
山田さん、漫画界のテッペンにいるのに!山田さんの名前を知らない人なんていないじゃないですか。

山田:そんなこと全然ないよ!!

はあちゅう:AMさんに失礼にならなければいいんですけれど、私「なんでAMで連載やっているの?」って思いましたもん。もう漫画だけで生きていけるじゃん、新しいことしなくてもいいじゃんって。

山田:俺は20歳で漫画家デビューしているから、マンガを描き始めて、来年で30周年になるんですよ。でも漫画全体の売り上げ部数って昔と比べて格段に減ってるんですよね。しかも毎年減り続けてますから、相当やりづらくなってるんです。
だから、今まで通りマンガだけ描くか、マンガを描いていたからやれなかったことが山ほどあるから、そっちに移ろうかなって、考えたんです。
それで去年から「できることから全部やる」って決めて、ニコ生で番組を始めたり、こういう連載を始めたり。他のアーティストと組んだり。
同時に、ニューヨークでやるミュージカルの脚本も書いてるんですよ。

はあちゅう:すごーい!

山田:で、その先に映画もやるつもりでいるんです。
昔、瀬戸内寂聴さんに「あんた映画監督やりたいでしょ?おやりなさい」
って指摘されて、やることにしたんです。
結局「面白いコンテンツ」を作りたいんですよね。自分の体験を元にして、物語を作って、喜ばせたい。それがコラムであり、マンガであり。映画になってもいいんです。

はあちゅう:マンガ欲は一端収まったということなんでしょうか?

山田:さすがに60冊、70冊描いてくると、「ある種の漫画」に関しては、やり尽くした気持ちもあります。とりあえず、「俺を分かってくれ」っていう私小説的なマンガは『美大受験戦記 アリエネ』で終わって、『スーパースーパーブルーハーツ』からは、みんな楽しんでよってスタンスに変わりましたね。

はあちゅう:じゃあ、今が一番理想の生活を送っているっていうことでしょうか。マンガもやって、映画もやって。

山田:そう。なんか始まるよっていうときが一番楽しいんですよね。今やってるニコ生がまさにそんな感じです。1年やって、ようやくいい感じになってきましたね。
状況を維持するだけってなると、とたんにつまんなくなるんですよね。そうなると新しいこと始めたくなるんです。

はあちゅう:すごくわかります。