堅苦しくない義実家の家風

晩御飯は、鉄板でもんじゃ焼きでした。もんじゃ焼き、皆さん、お好きですか? わたしは東京出身にも関わらず、夫と付き合うまでは、数回しか食べたことがありませんでした。東東京ではソウルフードでも、西東京では「お好み焼き屋さんに行った時に、気が向いたら頼んでみるもの」くらいのイメージです。もちろん家で焼くことなんてありません。

そもそも、もんじゃでお腹がいっぱいになるのか。その疑問はすぐに解けました。彼の実家では、鉄板から各自小さなへらでチビチビ摘まむのではなく、焼けたはしから、大べらで皿にごっそり取り分けて食べるという、わたしにとっては驚きのスタイルだったのでした。

義実家の人たちは誰もお酒を飲まないのですが、彼は飲むと言い出し、当然わたしにも勧めてきました。初対面の息子の彼女が、酒をバカバカと飲んでいるのはいかがなものか、とお母様の顔色を伺ってみたものの、さして気にしている様子はない。そのあたりで、彼の実家はまったく堅苦しくない家風なのだと、ようやく理解したのでした。

夜になって、皆が寝る準備を始めた頃、わたしと夫が居間で酒を飲みつつくつろいでいると、お義兄さんが仕事から帰ってきました。慌てて居ずまいを正します。お義兄さんは「あ、どうも、こんばんは」と言いながら廊下からこっちへ向かってくる途中で足を止め、わたしの飼い犬の頭を「かわいー!」と撫でました。「血のつながってないお義兄さんも犬好きなのか!」と、妙におかしな気持ちになったのをはっきりと覚えています。

翌日は、すっかり台風が去って青空が広がっていました。義実家の人々に別れを告げ、車の中で彼とふたりになった瞬間、彼が「アメちゃんのお陰で、間が持って楽だったね」と言い、「あー、同じこと考えてるな」と思いました。

義実家が呪いを解いてくれる

さて、こうして「初めての彼実家訪問」を振り返って思うことは、わたしはともすれば、口うるさいタイプの姑になるのではないか、ということです。なぜなら「アポなしで相手の家を訪れること」や「そのままなし崩しに宿泊すること」「義実家でお酒を飲むこと」に抵抗を覚えているからです。それはひっくり返すと、もしも息子が連れてくる女性が同じ行動を取ったら、非常識だと感じるであろうということです。

それは、わたしが“生まれ育った家庭”で植えつけられた価値観でしょう。わたしはその価値観に縛られているものの、それが正しいとは思っていない。むしろ「こうるさいババア」だと嫌われるよりも、「気さくなババア」として受け入れられたい。

ですから、未来の息子の彼女に「わたしもひどかったから」と言えるように、これからも、ほどよくだらしのない妻でいようと思う次第です。義実家という“よその家庭”を知ることは、自分をがんじがらめている“生まれ育った家庭”でかけられた呪いを解く鍵にもなるのだと思います。

Text/大泉りか

初出:2018.05.26

次回は<ハネムーン初日に夫に結婚指輪を失くされて気づいたこと>です。
アクセサリーに興味はないけれど、パートナーには結婚指輪をしていてほしい、と願っていた大泉りかさん。ハネムーンサービスを利用した新婚旅行先、ドバイで結婚指輪を買って最高の新婚旅行!だったはずなのに、その日に指輪を失くされて……。