「ノーブラの生徒がいて集中できない」
それは、放課後に開かれた父母懇談会の席でのことです。とある男子生徒の保護者が「クラスの女子生徒で、ノーブラらしい恰好の生徒がいる。気が散って授業に集中できないと息子が言っているので、対処をお願いします」と発言したというのです。懇談会から帰ってきた母親からそのことを聞いたわたしは、反射的に「えーー、どこ見てんの、キモーイ!!!」というような反応をしたことを覚えています。わたしの露出が多いことを平素苦々しく思っていた母親さえも、「高校生の男の子が、自分の母親に、クラスの女子のノーブラ疑惑をチクる」という出来事は、驚きだったようで、わたしのキモーイ発言をとくにいさめることもなく、「いくら薄着だっていっても、ブラジャーはしてるわよねぇ」と苦笑をしていました。
が、これについてはちょっと思うところもあります。当時のわたしは、夏場はパット付きのベアトップを愛用していました。もしかしてそれを、童貞男子高校生は「ヒモがない!ブラジャーしてない!」と思い込んだのではないか。真相はやぶの中です。それはともかく、この件がわたしに与えたのは「キモーイ」という思いだけではなかった。訴えを受けた学校側がそれを理由に、服装指導を行ったのです。
結果、放課後の生物室に呼び出されたのは、化粧と服装がやや派手気味な女生徒十人ほど。内容は、「袖のない服は禁止」というものでした。もちろん、我々以外でもノースリーブを着ている女生徒はいくらでもいるのに、まるで納得できません。「なんでわたしたちだけが禁止されるんですか?」と尋ねても、当然はっきりとした回答はなく、教師たちは、ただひたすら「学生らしい服装を……」とくりかえすのみ。
もうどこまで行っても平行線の話し合いに業を煮やしたわたしたちは「じゃあ、校内ではジャージ羽織ります。それなら文句ないでしょう」と提案しました。わたしたちのファッションを、根本から改革したかったらしい教師たちは、それでもまだ不満そうでしたが、仕方なく諦めたのか、我々はそこで折り合いをつけることになったのです。