バンドマンをクズにした女たち

 ところが、あれはその彼と付き合って半年か一年ほど経った頃のことでした。突然、何の相談もなく、彼はバンドを辞めてしまったのです。ドラムが金を横領して飛んでしまったとかでやっていたバンドが解散することになったのがキッカケでした。しかし、それまで散々「バンド=俺の人生!」みたいなことを聞かされていたもので、すぐさま新しくバンドを始める準備をするのと思いきや、一向に動く様子がありません。

「もうバンドはしないの?」なんて焦らせるのも、傷口に塩を塗り付けるようで、口に出せずにいたところ、どうやら彼はいつの間にか、すっかりバンドを頑張る気は失せてしまったようでした。しかし、相変わらず貧乏でクズなところばかりは、一切変わりがない。バンドを辞めたからといって、仕事を頑張ろうとか、デートに金を使えるようになったとかは一切なく、相変わらず家ごはんの材料費はわたし持ち、デート中にカフェに入ってくれることもなく、けれども変わらず、自分のための浪費はし続ける。

 しかし、わたしと彼の間では、それが普通のことになってしまっていた。だから今さら、「食費を入れろ」とか、「それ、無駄遣いじゃない?」なんて言える関係ではなくなってしまっていた――そう、今となってはわかります。彼をクズたらしめていたのは、彼がバンドマンだからといって、甘やかしてきたわたしや、彼の過去の女たちです。
バンドマンであることと、女性の好意に甘え切ることは別の話。けれど、勝手にこちら側が「バンドマンだから仕方がない」と、流行の言葉でいえば「忖度」して、どんどんと彼をダメな男にしていたのです。

 その後、別れてしまったので、詳しい消息は知りませんが、結局、彼はバンドに復帰することはなかったようで、噂によると今はドルオタとして、遠征しまくっているそうです。あれだけ金がないって言っていたのに、遠征する金はあるんだなー。まぁ、もう別にいいですけど。
ちなみに3Bのひとつであるバーテンとも付き合ったことがある――というか、いまの夫はまさに現役でバーテン。そして、「痛い目」にも遭わされたことがあるのですが、その話はまた別の機会に。

Text/大泉りか

次回は<夫に「子を産ませてくれるだけでいい」と詰め寄った女性へ…今ならそれもありだと言える>です。
里帰り出産を選ばなかった産後のつらい1か月。等しく子育ての当事者だという意識をなかなか持ってくれないとはいえ、大泉りかさんにとって頼りになったのはやはりパートナーの存在でした。旦那さんに過去「あなたの子供だけ産ませてほしい。あなたのことは諦めるから」と詰め寄った女性への気持ちも変わってきたようです。

初出:2017.05.27