選ばれる快感に潜む「葛藤」
もうひとつの理由としては、「女子高生デートクラブ」に出入りをする目的は、必ずしも「お金を稼ぎたかったから」とではなかったからです。
そもそも、部活や恋愛といった、校内での活動が充実していれば、デートクラブになんて出入りしません。
そういった皆がしていることに、あまり興味を持てないタイプの女のコ……当時、いわゆる“コギャル”と呼ばれていた女のコたちが、デートクラブには、多く集まっていました。
コギャルたちの関心といえば、ファッション、メイク、パーティー、男、セックス、そしてドラッグ。
そして、“界隈”で、どれだけ知られているか、どれだけ顔が利くか、どれだけ知り合いがいるかが、そのポジションの証明となる。
だから、デートクラブに出入りしている女のコたちは、デートをしてお金を稼ぐことと同じくらいに、そこで出会う女のコたちと交流を深めることに夢中になっていたのです。
お金が一切、掛からず、お菓子やジュースもあり、時折、訪れる男性と30分か1時間か外でお茶を飲んだりカラオケをするだけで最低五千円が手に入る。
もちろん、身体を触られたり、いやらしいことを言われたりと、嫌な目に合うこともありましたが、「そういうの、無理なんで」と断って帰る事も出来る。
それだけでも、十分にデートクラブに出入りするに値しましたが、わたしが「女子高生デートクラブ」にハマったのは、もうひとつ理由がありました。
それは、「指名される」という快感です。
マジックミラー越しに中にいる女のコを品定めした男が、「わたしを選ぶ」こと。
それは快感でした。
例え「エロそう」「ヤレそう」という印象からわたしを選んだのであってもそこにいる幾人かの女のコの中から、自分が選ばれるのは気持ちのいい行為でした。
そして、おそらく、それを感じていたのは、わたしだけではないと思うのです。
「ピンポーン」とインターフォンが鳴ると、それまで髪の毛を電気コテで巻いたり、マニキュアを塗ったり、プリクラ帳を見せ合ったりと、思い思いのことをしていた女のコたちの間に、一瞬、緊張が奔ります。「はーい。どうぞ」と受付の男性が玄関の扉を開けた後、入ってきた男が会員登録を済ませるまでのくぐもった声色と衣擦れ。
シャッというレールが擦れる音でカーテンが開いたことを知り、こちらをじっと値踏みして眼差す男の視線を感じながら、わたしたちは、何も気づいていない素振りで、今まで通り、自由奔放にふるまい続けます。
やがて再びカーテンが閉める音の後にヒソヒソと抑えた声が聞こえ、男が再び廊下の向こうに消えていった後、誰かの名前が呼ばれ、呼ばれなかった残りの女たちは、小さくそっと息を吐く。
指名された女は、込み上げる優越感を少し恥ずかしく思いながら、「キモいオッサンだったら嫌だなー」としぶしぶといったふうを装い、しかし、心の中では、五千円で何が買えるか、何を買おうかと素早く算段をする。
なぜ父親ほどの男たちに欲情されるのかを理解できないまま、思春期の女の体臭と、まるで似合わない海外ブランドの香水と、スナック菓子のにおいが入り混じった狭い部屋を出て、「わたしを選んでくれた男」の元へと向かう。
けれど、誇らしい気持ちでいるのもわずかの間のこと、すぐにそれは「ちょっと違う」となります。
なぜなら、男が選んだのは、「マジックミラーの向こうから見たわたし」でしかなく、男は「本当のわたし」のことは知らないんです。
知らないくせに、わたしを選ぶだなんて、どういうつもりなのか。
苛立ちながらも、「選ばれる」という快感は捨てられない。
――「選ぶ」快感を知った今になっても「選ばれる快感」はまだわたしを手離してはくれません。
選ばれることに対する苛立ちも。
…次回は《口コミから生まれる「パパ」と「女子高生」の池袋ネットワーク》をお届けします。
Text/大泉りか
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