彼はなぜ同性愛者に?暗号解読に人生を捧げた男の苦悩『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』

第87回アカデミー賞「脚色賞」を受賞した作品『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』が3月13日に公開。「コンピュータの父」と言われるアラン・チューリングの伝記映画ですが、悲痛なゲイムービーでもあり、強がる女性を描いた作品でもあります。

 本作は、第ニ次世界大戦時にナチス・ドイツが生み出した世界最強の暗号"エニグマ"を解き明かした天才数学者・アラン・チューリンの人生を描いた伝記ドラマです。

 当時、ナチス・ドイツにかなりの劣勢を強いられていたイギリスは、逆転勝利するため「暗号解読」に注力します。そのトップシークレット国家プロジェクトへ担がれたのがアラン・チューリングでした。

     
柳下修平 映画 ブロガー 映画が描く愛のカタチ モルテン・ティルドゥム ベネディクト・カンバーバッチ キーラ・ナイトレイ マシュー・グード ロリー・キニア アレン・リーチ マシュー・ビアード ギャガ The Imitation Game 同性愛 カミングアウト 第二次世界大戦 暗号解読
© 2014 BBP IMITATION, LLC

 暗号解読シーンをエンタメ要素で楽しませ、彼の功績を中核に添えながら、「アラン・チューリングとは何者だったのか?」という彼の内面も同時に描いていきます。

 彼の身に起きた戦後の悲劇。そして、そのきっかけとなった幼少期のいじめと、彼を助けたある人物とのエピソードが明らかになるにつれ、物語は意外な結末を迎えます。

 大傑作です。脚本や演出や音楽の素晴らしさはもちろん、ベネディクト・カンバーバッチとキーラ・ナイトレイの熱演など様々な要素が胸を打ち、あまりにも悲しいラストには涙が止まりません。


   

男がゲイに変わる瞬間


 この作品に関して傑作印は保証できるものであり、暗号解読シーンや演技を褒める記事は多く見受けられます。
しかし、今回は少し視点を変えて、この映画が描く「男がゲイに変わる瞬間」についてお伝えします。

 アラン・チューリングは同性愛者であり、映画の中でカミングアウトしています。
当時のイギリスは同性愛を犯罪とみなしていたこともあり、戦後にある青年と一夜を共にした容疑でアラン・チューリングは逮捕されていまいます。

 彼はなぜ同性愛者になったのか。それをこの映画は明確に描いています。そこにはエロティックさは皆無です。何かにドキドキにしたり、不意に男を経験して同性愛に目覚めたりしたわけでも、男性のふとした仕草に性的魅力を感じたわけでもありません。

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 彼は、ある一人の男性を愛する気持ちから少しずつ芽生えていったのです。閉ざされた絶望の扉を、ある男性が開けたと言っても過言ではないでしょう。
それは、彼の少年時代にさかのぼります。男女問わず、いやらしいことを考えても少しもおかしくない多感な時期。しかし彼は、そういういやらしさを持って同性愛には目覚めていません。

 詳細な言及は避けますが、もし私がアラン・チューリングと同じ状況になったら…私も男性の性的魅力を感じていたかもしれません。少年時代のあの一連のエピソードと、その後、彼が恋した男性に起きた悲劇を考えれば、そうなるのは当然と思いました。

『ブロークバック・マウンテン』という映画がそうですが、男性同士のセックス、つまり二人が結ばれる行為を見せられた後に別れが訪れると、強い切なさを感じ、胸が締め付けられます。

『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』に男性同士のラブシーンはありません。それなのに本作は、今まで私が見てきた同性愛を描く映画の中で、群を抜いて胸を締め付けられました。その理由は明らかで、少年時代に彼がゲイに変わった瞬間を目撃したからです。

 本作が描く「ゲイに変わる瞬間」、それは今まであまり描かれてこなかったタイプでありながらも、どのエピソードよりも説得力のある同性愛への目覚めでありました。