根底に存在するメインストリームはラブストーリーである
『博士と彼女のセオリー』は伝記映画でも難病ものでもなく、根底にあるメインストリームはラブストーリーです。もう少し踏み込んで言うならば、「愛」が内在しながら日々の奮闘劇があるといった感じでしょう。
この映画はご覧のとおり、映像のテイストがどこか幻想的で美しいのです。二人が惹かれ合っていくシーンは、幻想的で美しい映像によって描かれ、夢を見ているような錯覚を抱かせます。エディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが共に美しいのもその効果を高めています。
ケンブリッジ大学と言う高貴な場から始まる愛の物語は、スティーブンのALS発症によって終焉の危機を迎えます。ALSとは「Amyotrophic Lateral Sclerosis」の略で「筋萎縮性側索硬化症」と訳されます。
手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が動かなくなっていくこの病は、約2~5年で死に至ると言われています。しかし、脳の機能はほとんど衰えないそう。
ケンブリッジ大学に入り、将来を約束されたかのような道半ばでの余命宣告。まさに絶望そのものでしょう。そこでスティーブンは、ジェーンを遠ざけようとします。自暴自棄でもあり、彼女をこれ以上悲しませないためでもあったのでしょう。愛が内在しています。
しかし、ジェーンは離れません。ジェーンはスティーブンの父親に「彼を愛しています。彼も私を愛しています。だから私は彼と一緒に闘います」と誓いました。これも愛です。王道中の王道のラブストーリーでもありますね。
ここまで書いたことは大きなネタバレに見えつつ、まだまだ映画の冒頭。ここから先、この映画は最後の最後までラブストーリーを貫き通します。王道を描きながら、すれ違う様も現実のシビアさも描く。その姿勢は非常に見事でした。
ネタバレは伏せますが、とにかく最後の最後が秀逸。「素晴らしいラブストーリー」と素直に言える映画です。
女はいつだって女として見られたい
この映画の前半は、主人公二人の愛と闘病によって物語が進んでいきます。しかし、普通に生きていてもあれこれうまくいかないのが男女のサガ。ALSの看病ともなると、その現実は非常に困難を伴うものでありました。
普通の男女のように、彼らもいつしかすれ違いが生じるようになります。余命二年を宣告されながら長く生きられた奇跡は素直に喜ぶべき奇跡ですが、それによっていつまでも看病を続けなくてはならないジェーンを思うと、何とも言えない複雑な気持ちになります。
すれ違い始めた二人は、やがて他の人に惹かれるように。史実として、二人は別れており、今は良き友人であります。スティーブンは”あの女性”と、ジェーンは”あの男性”と結ばれています。その詳細は映画でチェックしてみてください。
ALSになっても設けた子供は三人、セックスはどうしてた?
映画でもネタにされているので、彼らのセックス事情に踏み込んでみましょう。事実として、スティーブン・ホーキングとジェーン・ワイルドの間には三人の子供がいます。
1963年にALSを発症。
1965年にジェーン・ワイルドと結婚。
1967年に長男誕生。
1970年に長女誕生。
1979年に次男誕生。
…という流れが史実です。
つまりALSを発症し、身体に自由が利かなくなってから三人の子作りに成功しています。人工授精かと思いますが、「全然大丈夫」と言っているので、生殖機能は衰えていなかったようですね。
ただし当然身体は動かないわけなので、通常のセックスではないことが容易に想像できます。ジェーンがスティーブンに跨るシーンがあるので、彼女主動でセックスができたのでしょう。もちろんそのような部分は描かれず、憶測の範囲ではありますが。
しかし憶測に留まらず、ジェーンの気持ちを考えてみましょう。想像でしかないので分からないですが、そこには複雑な心境があったはずです。通常のセックスができず、いつ命を落とすかわからない夫。
子供を「二人で作る」という結果が、映画における主題にも繋がっていくので、冷静に深く考えることは映画を深く探求することにもなっていきます。