(2)入江喜和『たそがれたかこ』
恋愛市場に居場所を失い、半径5メートル以内にステキな出会いがないとなれば、その真逆に振り切れてみるのも手です。
あまりにも遠すぎて手の届かない、芸能界の王子様を好きになれば、ずっと片想いのままかも知れないけど、告白してフられる心配もない。究極の安全圏から見守り続ける愛で自分の心を潤すことは、逃げとも言えますが、生き延びるための知恵でもあります。
彼のことが大好き、でも、付き合えるなんて思ってない。自分の立場をちゃんとわきまえているからこそ抜け出せない片想いがそこにはあります。
なんと甘美で救いがない地獄なんだ。イタくて、辛くて、もうどうしたらいいんだという気持ちで本作を読み進める時、変な言い方だけど、とても贅沢な気持ちなる。自分の中でこれだけの感情が渦巻くことに、感謝したくなるのです。
わたしたちは生きていくために恋をするのか、恋をするから生きていけるのか。
本作に登場する中年女「たかこ」が、若きバンドマン「谷在家」のファンになることでしみったれた人生を変えてゆくストーリーは、たかこと同世代あろうがなかろうが、女としての自分に自信が持てない女全てがグッとくるハズです。