本当の自分はいないけどいなくてもいい
―今のお二人を見ていると、一見肩の力が抜けていて、大人として成り立っているように思うんですけど、そこに行きつくコツはありますか?
散らかったセルフイメージから、どうやって、そこまで持っていけますか?
雨宮:以前は、「本当の自分」みたいなものがどっかにあって、それが見つかれば、自分らしい統一感のある装いができる! っていうイメージを持ってたんです。
だけど、この前のトークショーのときに、トミヤマさんに紹介してもらった『Kanata』というブランドの服を着たときに、もちろん好きで気に入ってる服なんだけど、普段とは違う服だし、いつもはあまり履かないフラットシューズも履いてて、その状況を「これって『自分がある人』のコスプレじゃん!」って思ったんです。
トミヤマ:確固たる自分あります風(笑)。
雨宮:新しい服にチャレンジしたい気持ちもあって着てたんだけど、自分がある人っぽく見られたい下心があったんじゃないかって思ったんですよね。
ヨージヤマモトしか着ない人みたいな、意志のある、スタイルを持って服を着てる人に見られたい、っていう。
『Kanata』の服で、「わたしはいない」って書いてあるニットがあったんですけど、そのときにその服のことを思い出したんですよね。
「私はいないけど、私はいなくてもいいんだな」って。
どっかに本当の自分があって、それさえ決まればスタイルのある人、自分のある人になれると思ってたけど、この服も好きで、別の服も好きでバラバラだけど、それで別にいいんじゃないかって。
トミヤマ:私もファッションに関する「私はいない」系の話があるんですけど、20代の後半に、ギャル好きな男の人と付き合っていた時期があって。
家の中だけでいいからギャル服を着てほしいと言われたんですよ。
それで初めてギャル服屋にいって、店員さんに相談したの。彼はこういう雑誌に出てるこういう子が好きみたいで~とか。
雨宮:「黒ギャルと白ギャルでいうとどっちですか?」「『nuts』っぽい方向でお願いします!」みたいなね(笑)。
トミヤマ:そうそう!(笑)。
そうすると、男の言いなりになっているだけだ、という言い訳の下に色々な服が着られるわけじゃないですか(笑)。
普通、服を着るということは「私がこの服を選びました」「この服が似合うと思っている、そんな私です」っていうことで世間様に相対しなきゃいけないんだけど、ギャル服のときだけは、自分が一切責任を負わなくてもいいから、ものすごく開放感を覚えたんです。
もちろん本当に好きな服とは違うし、長続きはしなかったけど、楽しかった。
似合わないとか、すぐ着なくなるかもと思っても、試着ぐらいしてもいいんじゃないのか?みたいなことに、26~7歳ぐらいで気づいてハッとなって。
雨宮:そうだったんですねー!
トミヤマ:自分をいったん他人にゆだねるのはオススメです。
そればっかりだと自分を奪われてしまうけど、ある程度自分をゆだねてみると「これは取り戻したい!」という自分が逆に見つかるというか。
ゆだねることをしないで、自分で何とかしなきゃと思って雑誌読んだり、情報収集していても限界があるので。
今日の服も、109で買ったんですけど、店員さんに、今日はこういうテーマでこういうお仕事をされている人と対談するんですけど、って言って選んでもらいました。
―プロに聞くのはすぐできそうですごくいいです。
トミヤマ:「プロなんだからちゃんと選んでね、頼んだよ!」っていう、少し上から目線の気持ちでゆだねてしまうのはアリだと思います。
雨宮:美容院のオーダーと似ていますよね。
なかなか言えないことですけど、あるとき意を決して自分で自意識を捨てた瞬間があって、「美人に見える髪型にしてください」とか、「女らしい髪形にしてください」とか。
一回言うと、ああ別に大したことじゃなかったんだって。
トミヤマ:そういうオーダーする人、絶対いっぱいいますよ。
客がその一言を吐き出すときはすごくハードルが高いけど、美容師さんからすれば「またか」ぐらいの感じかも。
雨宮:菊池凜子の写真持って行ったりしましたよ(笑)。
でも、髪型の話だし、顔を似せろとは言ってないから。
顔が違うのはわかってるけど、プロの腕前でいい具合に調整して下さいよ! って、今は写真持っていける。
美容師さんも、なりたいイメージが掴めたほうがやりやすいんですよね。
雨宮まみさん新刊『女の子よ銃を取れ』
トミヤマさんが「『女子をこじらせて』の続編だ!」と分析した『女の子よ銃を取れ』(平凡社)。 章を進むごとに、女子の外見に関する悩みや嫌なことが癒されていきます! 周囲の「かわいい」に圧迫されている方、ぜひ読んでみてくださいね。