間違った恋をしたから
間違いと知って、納得できる

 ところで、熊切監督は、なぜこの作品を撮ろうと思ったのか? 知子のような奔放な女性についてどう思っているのか?素朴な疑問が湧いた。

熊切「知子は正直なだけにすごく不器用な生き方とも取れて、あまりそこに計算がないと言うか。こらえきれず告白もしてしまうし、慎吾と涼太どっちに対しても想いがあるからこそ、のたうち回って自分でどうして良いかわからなくなっていく、みたいな人だなと。

原作を読んでいたときも感じていたんですが、僕は器用に立ち回れない人が好きと言うか、そういう人を見守りたいというか、なんとかしてあげたいと思っちゃうんですよね。満島さんにもそういうところを感じます」

夏の終り 熊切和嘉 宇治田隆史 瀬戸内寂聴 新潮文庫刊 満島ひかり 綾野剛 小林薫 クロックワークス 2012年映画「夏の終り」製作委員会

 兵庫県の加古川と淡路島をロケ地に、昭和30年代の東京と横浜の風景を見事に作り上げた本作のロケーションは、知子、と慎吾、と涼太、それぞれの関係をやわらかく見守るような雰囲気で、人生のままならさや憤りに直面し心折れたりする人々を支えているように見えた。

 自分に正直であるがゆえにいやらしくもあり、なまめかしくもあり、疲れた表情も見せれば、とてもかわいい顔もする知子のまっすぐさを体現する満島さんが印象的である一方、要所要所に差しはさまれる、静かに変わる空の様子が美しく際立つ。
変わり続けるありのままの自然の懐の深さは、同時に、結局は自分で自分のことを引き受けるしかないという、突き放すような現実の残酷さにも思われた。

熊切「主人公に肩入れして撮ってるんですけど、微妙なところではわからない、自分の生活とは違うところもあったりします。でも映画なら、単純に喜怒哀楽だけじゃない、もっと神経を逆なでするくらいに、観る人の心を揺さぶられる気がしていて。静かだけど烈しく、観る人の心を揺さぶるような映画になれば、と。

ところで僕には姉が二人いるんですが、女性映画を撮る時には何故かいつも姉の顔がちらつきます。
どこか遠慮して生きているように見える姉に対して、「もっと好き勝手生きていいんじゃない?」と、そんな想いが重なります。

本当に想いがあるならば、突き進んで良いんじゃないか。その先に大変な目に会うかもしれないけれど、それをひっくるめて、そういう人生を僕は肯定したいんですよね。僕自身は、日常は極力おとなしく、エネルギーを使いたくないんですけど……」

 恋愛に限らずとも読者のみなさんのなかにも、相手や自分と正直に向き合えなかったり、素直になれず窮屈な思いを経験したひとも多いだろう。
1930年代に30代を過ごし、社会的にもきっと不自由しただろう知子に共感できる女性も多いと思う。

 倫理的には不倫関係は許されない、とされている。
だけど、他人から「やめておけ」と忠告されても、まちがいだとしても納得するまで自分で向き合わないと、やめられない。取り返しのつかない失敗を経験して、色んな傷を重ねたことで、わたしもようやっとつまらない恋愛関係に手を出さないようになってきた。
自分で納得して、自分の手で終わらせた関係からは得られるものがきっと、ある。

 映画の最後、嵐が過ぎた夏の終りに、知子の表情はとても清々しく見えた。

8月31日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー

監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:「夏の終り」瀬戸内寂聴(新潮文庫刊)
キャスト:満島ひかり、綾野剛、小林薫
配給:クロックワークス
2012年 / 日本映画 / 114分

Text/鈴木みのり

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