
春画デートは、恋愛フィルタリングになる——元No.1ホスト・手塚マキさんインタビュー
歌舞伎町で30年——ナンバーワンホストから身を起こし、バーや書店、介護事業まで手がける異色の経営者がいます。Smappa!Group会長の手塚マキさん。ホストに読書から日本舞踊まで勧める「教養の強要」をミッションに掲げる手塚さんが、今度は歌舞伎町の能舞台と休業中のホストクラブで、手のひらサイズの春画ばかり約300点を集めた展覧会「小さな愛の物語 豆判春画の世界 新宿歌舞伎町春画展WA」(2026年2月14日〜3月15日)を仕掛けました。
長年にわたり歌舞伎町で男女の機微を見つめてきた手塚さんに、春画の魅力と、春画を通じた恋愛のヒントを聞きました。

春画展デートという「フィルタリング」
——会場を訪ねてみて、虫眼鏡で覗き込む仕掛けが没入感があって面白かったです! この展覧会、手塚さんは読者にどんな楽しみ方を提案されますか?
手塚マキさん(以下、手塚) 女性がカジュアルに「春画展行こうよ」って男性を誘うのは、めちゃめちゃいいと思いますよ。気になる人に「春画展に一緒に行かない?」って。それって、あなたと一緒に春画を見て笑い合いたいっていう意思表明じゃないですか。
——なるほど。友達とでもいいけれど、デートとして。
手塚 そう。好きな人だったら、春画展に誘われただけでちょっとドキドキするじゃないですか。もしくは付き合っている関係でも、性についてお互いの考え方って違うわけですよね。でも普段はなかなか話せない。それが春画を前にすると、すごくフランクに語れる場になるんですよ。美術館やクラシックの演奏会って、来場者の7割が女性だったりするんですけど、女性のほうが芸術作品を素直に受け取る力があるんでしょう。だから、女性のほうから「行こうよ」って誘うのは自然だと思いますね。
——それって、ある意味で相手を”試す”ことにもなりますよね。
手塚 いい意味で恋愛フィルタリングになりますよ。まず誘った時点で怖気づくようなら、そこでもうひとつわかりますよね。で、一緒に行ったら行ったで、春画をただいかがわしいものとしか見られないのか、「この色の組み合わせきれいだね」って楽しめるのかで、その人との相性が見えてくる。二段階のフィルターがあるんです。
——確かに「性の話」ってハードルが高いけれど、美術を介すると自然に入れるかもしれないですね。
手塚 春画って、不思議と誰かと一緒に見ても下品にならないんです。もともと江戸時代には「笑い絵」とも呼ばれていて、みんなで笑いながら楽しむものだった。だから、まず笑いが先に来る。春画のなかに猫が描かれていたりするんですけど、付き合っているカップルなら「猫が二人を見てるね」なんて話になるし、これからの二人なら、「猫がいるね」ってそれだけで十分なコミュニケーションになる。
春画ってなかなか大胆なことを描いているでしょう。それを一緒に見て「何これ!」って笑い合えるなら、実はすごく健全な関係なんですよ。思ったことをざっくばらんに語れる関係性ということだから。

着物に透ける、200年前の色気
——春画に描かれる女性には独特の色気がありますが、手塚さんはどこに惹かれますか?
手塚 やっぱり、衣服をまとっているところですかね。
——確かに、春画って意外と胸は強調されていなくて、その分、着物に目がいきますね。
手塚 それに、顔もほとんど同じに描かれている。あれは「型」なんです。そう描くのが美しいという約束事。江戸時代の浮世絵師・写楽って、当時はそこまで人気が出なかったとも言われているんですよ。役者絵で有名な人ですけど、役者の顔の特徴をとらえすぎてしまっていた。評価されたのは明治以降。「型」が江戸の美をどれだけ支えていたかがわかる話です。
——顔が「型」なら、着物や髪型にこそ個性が宿る。
手塚 まさにそうで。僕が春画の女性を見るとき追っているのは、どんな髪型をしているのか、どんな着物を着ているのか、どんなシチュエーションでどんな態度をとっているのか。着物や髪の結い方を見れば、この人は花魁だね、この人は人妻だね、って立場がわかるんですよ。そもそもスタイルなんてほぼわからないですし、動物的に身体を見ているんじゃなくて、着物という文化の先にあるものを見ている。その人がまとっている文化に惹かれるという感覚は、きっと時代を問わず変わらないんじゃないですかね。
——時代を問わず、ですか。
手塚 源氏物語の時代なんて、基本的に部屋の中が暗いから、まずお互いの顔を見ないんです。じゃあ何が魅力になるかというと、香りだったり、和歌の巧さだったり、字の綺麗さだった。なぜ紫式部や清少納言が生まれたかというと、貴族が自分の娘を天皇の妃にしたくて、教養の先生として雇ったのが始まりですよね。つまり、教養をまとった女性が最も魅力的だとされていた。美しさの基準は時代ごとに変わっても、その人が身につけている教養や文化に惹かれるというのは、もう千年以上前からある感覚なんだと思います。

- 1
- 2