ヨットで二人きりの宴会。キスをしたら上半身裸の男性が現れた/中川淳一郎

一時期一緒に仕事をしていた外部の協同機関で働く理恵子さんとは、互いにそのプロジェクトの最下っ端ということで、細かい作業をやたらとさせられた。それこそ、プレスリリースを記者クラブに運んでポストに入れたり、キャンペーンガールを連れてスポーツ新聞の編集部を訪れてイベントの告知をしてもらったりといった仕事だ。

互いの先輩社員も「あいつら、なんか気が合うみたいだから楽しんで何でもやるだろう。二人に雑用を振っておけばいい」といった形でバンバン仕事をふられた。頭脳労働の類は一切ないため、気楽に僕らは現場へ行き、担当者に挨拶をして資料を渡してあとは2人して飲みに行ってしまうことが多かった。

最初の数か月間は飲むだけだったのだが、その後、理恵子さんは過激化していく。「ねぇねぇニノミヤさん、もうさ、私たちラブホ行っちゃわない? 飲むのも同じだし、会社に帰るまでに少し休みたいじゃない」。

確かにそれも一理ある、とばかりについに雑用ついでのラブホテル行き、という禁断の道に足を踏み入れてしまうようになったのである。この日、初めてだったこともあったのと、さすがに勤務中にこんなことをしていいのか? といった逡巡はあり、1回しかできず、ホテルを出る時は知り合いがいないかきょろきょろした。

スーツ姿の男女がラブホテルから出てくるというのは相当ヘンテコリンな光景だったわけだし。しかし、我々はすぐにコレにも慣れるようになり、その後は1ヶ月に1回、堂々と各所のラブホテルへ行き、毎度3回はセックスをするようになった。

みんなが仕事してる間に…

「ニノミヤさん、今さ、みんな仕事してるんだよね。なんかいいね、そんなときに私たちはこうやってさ、さぼっててさ。次の仕事も楽しみだね」

「理恵子さん、でも、バレませんか? 僕の部署は人がたくさんいるけど、理恵子さんの部署って4人ぐらいしかいませんよね?」

「全然大丈夫。ウチの部署って誰が何をやっているか、とか誰も気にしていないの。だから私が元気に外回りしているだけとしか思ってないよ。そして、私って感じだけはいいから、先方のおじさま方から飲みに誘われていてそれはそれで接待としていいのでは、と思われてるみたい」

「全然接待でなく、こんなことしてるだけなんですけどね…(笑)」

この頃僕は会社に入ってまだ3年目だったが「会社って楽しいじゃん」と思うようになっていっていた。そして、夏のとある暑い日を明日に控えた木曜日、彼女から電話が来た。