エロについて思わせぶりだがまったく何を考えているのかが分からない女性がいた。20代前半の頃行きつけの居酒屋の店長・佳純さんである。閉店時刻は午前1時だったのだが、毎度「残っていいから」と耳打ちをし、生ビールを置いてくれた。
1時になると他の客には「はい、帰った帰った」と言い追い出し、そこから先はカウンター越しで彼女は食器洗いをしながら2人で2:30ぐらいまで飲んでいた。彼女はハッとするほど色が白く、眼は大きく胸もかなり大きく僕は多分彼女のことは好きだったのだと思う。
そうして皿洗いを終えてある程度二人で飲み終えたら解散となり「また来ますね~」「ニノミヤさん、ぜひ~」と手を振って別れるのが常だった。そんな中、彼女は入院をすることになった。何の病気なのかは分からなかったが、入院前にお願いをされた。
「ニノミヤさん、鍵を渡しておくので、毎日店に来て糠漬けをかき混ぜてもらえますか?」
「えっ? でも、糠漬けって同じ人がやらなくちゃ良くない、って聞いたことがありますが」
「それはそうなんだけど、何もしないよりは他人がかき混ぜた方がマシなのよ。だからお願い」
「分かりました」
というわけで、僕はそれから毎日佳純さんの店に行き、糠床をかき混ぜる日々が開始した。雨が降っていても行かざるを得ないし、正直「なんでオレはこんなことをやっているのだ……。別に佳純さんはオレの恋人でもないだろ……」とは思いつつも、こころのどこかで「もしかしてエロいことができるかもしれないな」といった期待は抱く性欲ムンムン男だったのである。
「ニノミヤさんを彼氏として」
一度病院に見舞いに行ったのだが、その時、彼女はなぜか「ゲームボーイカラー」という携帯ゲーム端末を僕にくれた。「ニノミヤさん、テトリス好きって言ってたよね。テトリスのソフトもあるからさ」と言い、僕はお礼を言ってその日は病院から出た。
そのテトリスをしながら、相変わらず糠床をかき混ぜ続け、無事退院の日を迎えた。その日、佳純さんは「今日退院するからウチに来てよ」と言い、僕は彼女の住むアパートへ。彼女は一方的にしゃべり続け、病棟に彼女を口説き続けるオッサンがいたことを延々と愚痴っていた。そして「ニノミヤさんを彼氏として紹介すればよかったわ」と言った。
結局この日は数時間佳純さんの一方的な喋りを聞くだけだったのだが、家に上げてもらえたことからいつかはあの部屋のあのベッドで色々できるのかなウヒヒ、と思った。
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