相手に抱いた違和感を見逃せるか

さて、少し話は逸れますが、わたし自身は自分の主義主張を言語化できる性格でして、特に良好な人間関係を築きたいと思っている相手に対しては「ズルはせずしっかり筋を通しましょう、失敗してもケジメはつけましょう」という考えのため、おそらくタイプとしては彼よりもあなたに近いでしょう。
この性格は自分の長所だと思っていますし、そのおかげで豊かな人間関係を築いてきたという自負もあります。そして、そんな自分でいるための努力だってしてきました。

ただ、ここ最近の気づきとして、わたしのようなタイプって結構圧があるんですよね。
自分の主張を通したほうがいい場面で言葉を飲み込む人、自分の気持ちを外に出さずに溜め込む人、気が弱くてつい譲りがちな人というのは、ほんとうにたくさんいるのです。かつては、こういう人たちに対して「いや! 言いたいことがあるならはっきり言いなよ! 黙ってたって損するだけじゃん!」という怒りがありました。それから「世の中にはこういう人もいるんだな」と理解はできないまでも認識を持てるようになりました。そして現在は「この人は、こういうタイプなんだな」という、受容と寄り添いのフェーズに入りました。

なぜこの考えに至ったかというと、そういった人たちに対して、自分の感情や主義主張を押し付けないように気を配ってはいるものの、それが不十分だったと感じる場面が多々あり、人間関係において失敗と後悔を繰り返したから。

もちろん、腹の立つことだってあります。言いたいことを飲み込んで、損ばかりして、自省を繰り返すもののなにも変わろうとせず、他責的な思考に支配されている人の話を聞いていれば、「いや! 言いたいこと言いなよ!」とイライラしたりもしますし、たとえ自分自身が我慢することのほうが楽だと思えても、自分よりずっと若い世代を有害なものから守るためには、苦手な自己主張をすべきだと憤りを感じることもあります。

ただ、他者との関わりにおいては、許せる/許せない、という一個上の目線から明確なジャッジをするのではなく、見逃せるかどうかをひとつの判断基準にしています。
わたしも、周りから性格のキツさや言葉の強さを見逃してもらっていると気づくことがありますし、世の中わたしのような人間ばかりになったら大変なことになるな! とも思いますしね。

相手との関係性、相手が現在置かれている環境とそれに伴う精神状態、相手の根底にある人としての本質的なやさしさ、人生の節目における決断の重要性。
これらを照らし合わせて、相手の欠点や引っ掛かった言動をさほどストレスなく見逃せるようだったら、恋愛関係に限らず、ご縁があるということなのだと思います。
そういった観点で考えてみると、あなたたちはお互いに、相手に対して不足していると思っている部分を見逃すことに限界がきたのではないでしょうか。

自分で気持ちの折り合いをつけていい

今後前を向くために一度彼と決着をつけたい、という気持ちはよくわかります。きっと、そのほうがスッキリもしますよね。
でもね、自分の望む通りに向き合ってくれない人間というのは、山ほどいるのです。むしろいちいち丁寧に向き合ってくれる人間のほうが稀で。それはとても人間関係に恵まれているということ。
そもそも、「別れるにしてもきちんと向き合いたい(なぜならこのままだと後悔が残るから)」というのはあくまでもあなた自身の考えで、厳しい言い方になりますが個人の勝手な都合です。

先でもお話ししましたが、丁寧に向き合ってくれる人のほうが稀で、たとえ親密な関係だったとしても、自分の中でもうおしまいだと思っている相手にわざわざ向き合ってあげる義理はないのです。たとえ大切に思う相手とは向き合う考えを持っている人でも、自分の精神状態が落ち込んでいてそんな余裕がなかったり、「もう向き合う必要のない相手だな」と対象から外されたり、「向き合ったほうがいいとわかっているけれど、その労力を割くよりも静かにフェードアウトするほうが自分の心は消耗しなさそうだな」と判断されたり、といった選択は、その人の自由なのです。彼がそうだと言っているわけではありませんから、勘違いしないでくださいね。

何をお伝えしたいのかというと、人間関係はどれほど自分の考えに正当性があろうとも、望んだ通りにいかない可能性を大いに孕んでいるのです。
だからといって、あなたの人生はこのまま止まったまま前に進めない、というわけではありません。きちんと相手と話し合いができずとも決着はつけられるんだと、あなたには知ってほしいのです。

お付き合いや結婚は相手あってのことですが、自分の気持ちに折り合いをつけられるのは自分自身に過ぎません。相手の言動は、あくまでもその補助的なものだとわたしは思います。
気持ちに折り合いをつけることにおいては、自分に都合よく解釈したっていいのです。
たとえば、「彼の(話し合いをしたくないという)価値観を尊重してあげた、今までは甘えてばかりだったけれど、最後は彼に譲ったんだ」ということにして自分の過去の失敗を帳消しにしてみたり、「別れ話といえど、節目で弱腰になるような男だった! あー! 結婚しなくてよかったー!」と次に目を向けるブーストにしてみたり、なんだっていいのです。

あなたは、彼に「自分の悪いところを直すから」とお伝えしたようですが、「自分の悪いところを直す」という条件は切り札でもなんでもありませんし、彼にとって決断を改める言葉にはなり得ません。想像の範疇でしかありませんが、別れを決断した彼からしてみたら「こうなってしまう前に直してほしかった」と思っているかもしれませんしね。
だからこそ、「彼とお付き合いしているときの自分のこういう部分はよくなかった、だから次の恋愛では同じ轍を踏まないように努力しよう」と、反省する相手と改善したことを見せる相手を切り離すことだって、ひとつあなたが前を向くための意志になるのではないでしょうか。

最後に、今後どうしていったらいいか、ということですが……この連載で一貫してお伝えしているように、あなたがどうするかはあなた自身が決めることですから「こうしなさい」と指示することはできません。また、彼の意志も反映されることでしょうから、あなたがしたくてもできないこともあるはずです。
どういった結果であれ、これまで彼の不足している部分を受容する努力をしてきた自分を褒めてあげること、自分の不足していた部分を彼が受容してくれていた事実に感謝することは、あなたの今後の人生が豊かになる材料になるのではないでしょうか。

Text/ものすごい愛
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