次はホテルに誘うぞ!
というわけで、翌週、下北沢で飲んだ時、21時を過ぎた頃に会計をした。「次の店どうする?」と言われたが、僕はカウンターで「浜田さん、ホテル行こう」と言った。すると彼女は仰天した表情を浮かべ「えーっ?? どういうこと?」と明らかに困惑した。手を握り、「いや、すごく浜田さんと色々したくてさ……」と言ったら、すぐにピシャリと言われた。
「私達、付き合ってないでしょ? 付き合ってないのにそういうことをやるのはおかしいと思う。ニノミヤ君、順番が違うの。私だってあなたのことは好きだから、いつ告白されるか待っていたの」
まさにグウの音も出ない正論である。しかし、僕はその頃誰とも付き合っておらず、様々な女性と遊ぶような日々を過ごしていたため、一人のステディな恋人を作ることには抵抗があった。付き合うとなれば、それらの快楽を失うことになる。
「その通りだね。ごめんなさい、気が急いたよ。物事は手順ってものがあるからね」と僕は言った。この日はこのまま別れ、そのまま浜田さんと会うことはなくなった。もしかしたら彼女を傷つけたかな、と毎度悔やんだが、数年後、同級生から浜田さんが結婚したことを聞いた。今、彼女が何をしているかは知らないが、「付き合わない限りは絶対にセックスをしない・させない」という姿勢は改めて立派だったと下半身事情においては自由奔放過ぎた若き日のニノミヤ氏はしみじみと振り返ったものである。
Text/中川淳一郎
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