わたしと別れたくない恋人に誘われた旅行。夜になるとまさかの行動に

かつての恋人のことを思い出してみると、「付き合ってよかったなぁ」という人もいれば、「あいつといた時期は人生の無駄だった」という人もいます。今さら過去をなかったことにはできないのだから、あれこれ後悔をしても仕方がないけれど、不思議なのは、後者として思い出すのが、ドロドロの別れとしたとか、ケチョンケチョンに振られたとか、そういう相手ではない、ということです。

むしろ殺す殺されるみたいに後味悪くフィニッシュした相手のことを思うと、あれはあれで面白かったなと思うし、「恋愛に、あんなに情熱をかけられたなんて……」と、かつての激情の日々を微笑ましくも振り返れる。「貴重な経験をくれてありがとう」と感謝する気持ちすらある。

では「あいつといた時期は人生の無駄だった」という人は、いったいどういう人なのか。それは “一緒にいてつまらない時間を過ごした人”、それに尽きます。

わたしの心を繋ぎ止めたい恋人

あるとき、もう破局寸前だった恋人に、旅行に誘われたことがありました。離れつつあるわたしの心を悟った彼の「挽回のチャンスが欲しい」という言葉にほだされて付き合うことにしたのですが、それが別れの決定打となったのは、とにかく旅行中、つまらなかったからです。

旅行先は伊豆半島の下田でした。下田といえば新鮮な魚介。というわけで、ランチは駅前で見つけた定食屋に入り、鯵のたたき定食をオーダー。店を出てからも、「さすがは獲れたての地魚。美味しかった~!」と感激しているわたしの横で、恋人は「まぁ、海で食えば、あんなもんじゃない?」がテンション低い。

「あれ、今回の旅の目的は、あなたがわたしに見直されることでは?」と疑問が湧いたものの、ここでわたしのほうが臍をひん曲げては、旅が台無しになってしまう。だから聞かなかったふりをした。

異国情緒あふれるペリーロードでお土産屋さんを冷やかしたり、海岸を散歩したり、幕末期にアメリカ駐日総領事・タウンゼント=ハリスに使えた悲劇の芸者、唐人お吉に縁ある宝福寺などをぐるりと観光。まぁ可もなく不可もなく。今回、このエッセイを書くのに下田の観光スポットを調べてみたところ、超絶景の龍宮窟や、イルカと触れ合える下田海中水族館、遊覧船だってある。事前に調べて行きたい場所をリクエストしなかったわたしも悪いけれど、でもほら、旅の目的は離れつつあるわたしの心を繋ぎとめるためでは。