判断力で自分を獲得していくのが自己肯定感よりも大切/能町みね子×水野しず『結婚の奴』イベントレポート

人生を変えるような恋愛だの結婚だのは無理だが、ひとりは嫌だ――恋愛に対して疑問を持つ女性が、ゲイ男性との「恋愛に発展しない」結婚生活に至るまでを描いた話題書『結婚の奴』。刊行を記念して下北沢B&Bで行われた、著者の能町みね子さんと水野しずさんによるトークイベント『世代の断絶』のレポートをお届けします。

能町みね子×水野しず『結婚の奴』刊行記念イベント 能町みね子さん、水野しずさん
能町みね子(以下、能町)

水野しずさんを呼んだきっかけを話していいですか? 私はトークイベントをよくするんですけど、ゲストに呼ぶのはだいたい同年代なんですよ。私は今40歳で、このままだとどんどん老けていって、老けている人同士のコミュニティにおさまってしまうから、若手に門戸を開かなければ……っていうと偉そうだけど、そう思って。

でもハタチとかだと、さすがに今回の本(『結婚の奴』)のテーマである結婚の話とかを考えたことがあんまりなさそうな気がするし。しずさんは私の10個下ぐらいなんですよね。このイベントを計画するまでお会いしたこともなかったんですけど、世代としてもちょうどよく離れていて、かつ昔から書くものがすごく面白いと思っていて、今回お呼びしました。

「恋愛いらない」派にとっての恋愛

能町みね子×水野しず『結婚の奴』刊行記念イベント
能町

恋愛とか結婚の話を書くのが、ほんとは好きじゃないんですよ。 自分があたかもロマンチックなことしてる感が出るのもやだし、そもそもこの本でも書いてるけど私自身、恋愛がピンとこないままきてる。
みんな彼氏と別れたりするとご飯食べられないとか言い出すけど、私はそういうこともマジでない。ちょっとはショックだけど、へこんでも1日半ぐらい。普通にご飯食べるし、体重減らないし。そのへんしずさんはどうなのかな、恋愛をちゃんとすることあるのかな。

水野しず(以下、水野)

今日来る時に宝石のセールをしているのを見かけて思ったんですけど。

能町

あっ、さっきTwitterに書いてた。

水野

今自分は31歳なのですが宝石って、いらない。欲しいという気持ちが全く発生しないという事に気がつきました。
子どものころに「宝石って別にいらなくない?」と母親に言ったら、「今はそうでも大人になれば欲しくなる。今に見てろよ」と言われたんですよね。
当時は、なるほど大人が言うならそんなものかと考えていたんですが、今改めてダイヤモンドを見ても「なくしそう」以外なんの感情も発生しなかったんですよね。
この現状で「給料三か月分です」とか言って仰々しくダイヤモンドの指輪を差し出されたら、もうプレッシャーしかないですよ。ヤベエ終わったという感じ。向いてない。圧倒的に向いてない。苦しみ。フードバトルのような明らかな過剰さを感じる。全員が全員、やり過ぎている。システムの暴走。単に生きていくためにフードバトルは不要なのに、自分のような、そう食欲のない人間は正直、つらい。おにぎり一個で精一杯なんだよ。バトル不可。

するつもりなく冒険してきたこれまで

能町みね子×水野しず『結婚の奴』刊行記念イベント
水野

を読んで共感したのが、「意外とデンジャラスなことができない」ところ。変わった生き方をしているように見られがちだけど、案外根が真面目で冷静であってしまうというね。変に判断力がある。

能町

ぜんぜん保守的っていうか冒険しないんですよ。たばこも吸わないし、入れ墨も入れないし、薬もやらないし。刺激をそんなに求めてないのかもしれない。

水野

でも、結果として刺激的な人生にはなってますよね。

能町

プロフィールとかには人より書くことがあるかもしれないけど、それはすべて必要に応じてやってきたことという感じで……。
この本の中ではざっくり書いちゃったんですけど、まず私は自分の性自認がなんだかよくわかってなかったんです。

水野

私も性自認については結論を出したことがないですね。ある段階で判断できるという確信が持てないので、はっきりさせようと思ったことがなかったです。曖昧でOKかな。

能町

それは一番いいかもしれない。私の場合は、はっきりしなきゃいけないって思っちゃってて。これこそ世代の断絶ですけど、ちょうど自分の性自認について深く考えはじめた大学1,2年ぐらいの97年ごろがネット黎明期だったんですよ。

96年まで田舎の高校生で、何もなかったのが、97年に大学入学で上京したと同時にインターネットも手に入れて、爆発的に世界が広がっちゃって。
ネットで友達には言えない、性自認のことを調べるわけですよ。そうすると、やっぱりエロは人を動かすから、掲示板とかがすでに発達してて。

水野

にも書いてますよね、掲示板を通していろんな人に会ったことを。

能町

そうそう。それだけで1冊書きたいぐらい、いろんな人と会って。二次元にしか興奮できない人とか、超大きい女の人しか好きになれない男の人とか……そこで自分の想像できないような、いろんな人がいるんだってことを知って。

水野

ぜんぜん冒険してますよね。

能町

……してましたね(笑)。その時、一番してたかもしれない。

水野

今気がついたのですが、我々って、冒険の自覚がないだけじゃないですか? 一般的に見たら冒険はしてるんだけど、自分にとっては当然と思える選択だから冒険の自認がない。世間的には恐らくかなりの冒険家ですよ。

能町

冒険家かな。うれしいですね。行先は日本国内の近いところばかりだけど、冒険家というと世界中に行ってるみたいでいいですね。