不毛すぎる口説きあい

三太郎はよく、今遊んでいる女の子の話をしていた。タバコを吸いながらどうでも良さそうに話している時、彼は少し目を細めて薄笑いを浮かべる。「俺は自分の人生がくだらないことをわかっている」とでも言いたげな顔つきはぶん殴りたいくらい調子に乗っていて、きっと私が仕事の愚痴を言っている時の顔も、同じような顔つきだっただろう。達観したふりして話すことには、不思議な気持ちよさがあって、だけどそれをする時の恍惚とした表情はまだ私たちに似合うものではなかった。

話しながら、自分が無理をしていることにはなんとなく気づいていたけれど、だからって本当の自分でいられるような自信が私にはない。三太郎にもない。お互いに、相手が無理をしているのはわかっていて、気持ち悪くて、だけどでも、そうしないと立っていられない。自分らしく立っていられるような波は来ない。どれだけ無理して喋っても、三太郎がその無理に触れることはなかった。私も彼の背伸びには触れない。もし私たちが本当の友達なら「ダサいよ」とかって言い合えたのかもしれないけど、そこまでの関係性はなかった。

飲んでも飲んでも、一向に話は盛り上がらないし、友情も育たない時間が数ヶ月続く。私たちはただ、お互いの自尊心を保つ為に会い続ける。そうしているうちに、ただ会ってつまらない会話をしているだけでは磨かれなくなっていって、私たちはお互いに、相手が自分を好きになれば面白いのにと考え始める。決して好きではないくせに。

「俺彼女と別れたわー」
「彼女いたっけ?」
「いたわ。嫉妬?」
「うざ」

〜携帯をいじる時間〜

「あー暇」
「飲めよ」
「うわ、酔わせたいの?」
「うざ」

〜携帯をいじる時間〜

「疲れた」
「帰る?」
「帰んのもダルい」
「えホテル行きたいの?」
「ちげーよ死ね」

〜携帯をいじる時間〜

本当にどうでもいいと思っている人間としかできない会話というものが、この世にはあって、それは新鮮なやりとりだった。そういう新鮮さが少しずつ、私達の気の合わなさを埋めていく。この世で一番つまらない会話を、この世で一番安い日本酒を飲みながら行う時間は、意外とかけがえのないもので、だからといって失いたくないほどでもない。そういう風に価値が生まれた時点で、きっと三太郎とは遊ばなくなるだろう。それは嫌だ。一番どうでもいい、ただの暇つぶし要員でいたいといつからか私は願い始めていて、願いが生まれたってことは役が乗った。つまり私たちに終わりが来る。