共感しすぎて生まれるバグ

この飲み会でわかったモテ美ちゃんの情報は以下である。

・サンボマスターが一番好き
・サラダは苦手
・大勢での飲み会が苦手
・ポケモンが好き
・ラジオをよく聞く
・サラダをつい頼んじゃう
・ポケモンGOすぐ飽きた
・音楽はなんでも聞く
・サニーデイサービスが一番好き
・一番好きなのは銀杏boys

おわかりいただけただろうか…。
モテ美ちゃんはわかりすぎる。わかりすぎて自我に矛盾が起きている。サラダが苦手なのにすぐサラダを頼んじゃうのはマジ謎だし、ポケモンが好きなのにポケモンGOへの当たりが強い。そして…一番とは…一番って、一番だから一番なんだよね…? あ、でもそんな厳密な話じゃない感じすか? そうっすよね、いっぱい一番があっても良いっすよねピース。

私は性格がクソなので、モテ美ちゃんの矛盾点に興味が止まらない。彼女は一体何者なのだろう。本当に好きなものは何? 本当は何を考えている? なぜそんなに、共感力が高いの? そんな私の疑問をよそに、モテ美ちゃんはお酒の力でさらにブーストしていく。

「私も11月生まれ! 気が合うね!」
「誕生日ぴったり4ヶ月違いだ! 気が合う!」
「干支が一緒! だから気が合うんだ!」

お前すげえよ。もう全員とマブじゃん。見境なしかよ。ここまでくると開いた口が塞がらない。何? 誕生日ぴったり4ヶ月違いって。なんでもありじゃねーかよ。なぜモテ美ちゃんはここまでするんだろう。全てをわかり、万物と共通点を見出すことで神にでもなる気なのだろうか。否、そうではない。モテ美ちゃんは逆ハーレムを錬成しようとしているのだ。

「モテ テク」と検索すると出てくる結果は無数にあるけれど、よくある恋愛指南サイトには大抵「共感」の2文字が綴られる。確かに、趣味が一緒だったり価値観が近いことは仲良くなるための鍵だ。モテ美ちゃんはこの2文字に完全に洗脳されていた。親しくなるために、好意を得るために、とにかくわからなくてはならない。わかれ。相手をわかろう。限りなく同じ思考のふりをしよう。全方位に共感することで、全員にモテ、逆ハーレムを形成しようとしていたのだ。

逆ハーレムは無生物でも可能です

飲み会後、終電に乗ったモテ美ちゃんの大きな瞳は真っ黒だった。深淵が、そこにある。四人の男の子を“わかって”しまったせいで、モテ美ちゃんの自我は崩壊してしまったらしい。そりゃそうだ。わかりすぎだよあんた。しかも別に、逆ハー展開起きてなかったし。当然だよあんなにわかる奴怖いもん。物事には限度がある。真っ黒の瞳に引きつつ、私は思い切ってモテ美ちゃんに質問した。

「サニーデイ好きなの?」
「え? あぁ」
「私も好きなんだよね」
「え? なんかおすすめのアルバムない?」

おぅふ…モテ美…あんたすげえよ。逆ハーのために、この女は嘘の共感をしていたのだ。え、そこまでする? ってか、踏み込んだ質問とかされたらどうするつもりだったわけ? 恐ろしい子…と思いながら、好きなアルバムを伝えると、モテ美ちゃんはさっと携帯にメモを取り颯爽と電車を降りて行った。

次に彼女に会った時、モテ美ちゃんはしっかりサニーデイサービスを好きになっていて、なるほどと思う。別に後からでも良いのか。結果、本当に同じ趣味になれば安泰だ。それに、嘘をつくことで強制的に知らないものを知るきっかけを掴んでいると思うと…あれ? これってもしや、知識の逆ハーレムが起きている? えやば。
「好きだ」って嘘をついたらその責任として知る作業が生まれる。結果的にモテ美ちゃんは万物から「我のことを知れ」って手を引かれるのだ。逆ハーじゃねぇかよ…ハーレムが発生するのは対人間だけではないと知った21歳の冬…。

ともあれやっぱり、度が過ぎた共感は人に恐怖を与えると思うので、その作戦でモテようとしている方は限度を意識しましょうね。あと、あんま嘘つかない方がいいよモテ美ちゃん…。

TEXT/長井短

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