徐々に親密になる2人の関係と、その結末

ところで、男女別で分かれているはずの刑務所において、独房に収監されている2人が「男」と「女」なのはちょっとヘンだな……と思った人はいないだろうか。そう、女言葉で映画語りを続けるモリーナはトランスジェンダーで、実は体の性別は男性だ。一方、バレンティンはノンケの男性。交わらないはずの2人だったが、映画語りを続け紅茶やマテ茶を一緒に飲んでいるうちに、彼らの関係は徐々に友情を超えた親密なものになってくる。

ちょっとだけ結末を明かしてしまうと、物語の最後、モリーナだけが釈放されることになり、バレンティンは刑務所に残り続ける。独房の中で親密になった2人の関係はどうなるのか。

「モリーナ、絶対に忘れちゃいけないことがある。人生というのは短いかもしれないし長いかもしれない、それはともかく、人生において、あらゆることは一時的であって、永久に続くことなんて何もないんだ」(p.401)

幸せな時間が終わってしまうのが辛いと語るモリーナに、バレンティンはこんな言葉をかける。永久に続くことはなく、2人の思いが重なった時間は、長い人生の中で考えるともしかしたら一瞬だったかもしれない。ただ、それは決して悲しいことではないのだと、『蜘蛛女のキス』のラストは語りかける。

とにかく、「独房で2人きり」というかなり制約のある条件下で、ここまで豊かな物語が展開されてしまうのかと驚く。繰り返しになるが、今年も残すところあと3ヶ月と少し。閉塞感やパートナーとのコミュニケーションに悩んだら、ぜひ『蜘蛛女のキス』のページを開いてみてほしい。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。