「こんなことを思ったらダメなんじゃないか」

一流の詩人は自分が実際に感じることを言い、二流の詩人は自分が感じようと思ったことを言い、三流の詩人は自分が感じねばならぬと思い込んでいることを言う。(p.21)

自分の気持ちをいちばんわかっているのは自分だと考えるのは早合点で、私たちの多くは実際のところ、「結婚・出産した友人を祝わなければならない」「エコに関心を持たねばならない」「大好きな人たちとの食事を楽しまなければならない」などなど、様々な「感じねばならない」が、意識のかなり深いところまで侵食している。たとえば、私は親の愛情をわりとしっかり受けて育った人間なのだけど、それにも関わらず「家族」という概念がどうしても苦手だ。でも、毒親持ちでもない私が「家族」を嫌うのはダメなんじゃないかと、最近までなかなかこの気持ちを口にできなかった。

別に詩人に限ったことではなく、多くの人は「こんなことを思ったらダメなんじゃないか」と自分の気持ちを誤魔化して、それにすっかり慣れてしまう。だけど、ペソアの詩にはおそらく、「実際に感じること」が書かれている。だからこそ彼の詩は時代も国も超えて、読む人をちょっとだけ孤独から救うのだろう。

30代が生きづらいなんて思わない。でもやっぱり、大人になると「実際に感じること」をそのまま口に出すのは憚られる機会が多くなり、それが続くと自分が「実際に感じること」もいつしかわからなくなってしまう。一流の詩人になんて到底なれないけど、もしもあなたが誰にも言えない自分の「実際に感じること」をふと思い出したくなったら、私はペソアの詩集を開いてみることをおすすめする。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。