見えない敵と戦っていたアラサー時代
――きつこさんご自身は、どんなアラサー時代を過ごされていましたか?
- まんしゅう
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20代後半は、ブログにも描いたことのある足フェチサイトのモデルや、キャバクラなど、とにかくいろんなバイトをしまくっていた時期。
「いつか漫画のネタにしてやる、転んでもただじゃ起きないぞ」というハングリー精神でやっていましたね。
自分の奥底に眠るもやもやを、なんとか漫画として形にしなきゃ、とかき立てられる気持ちでした。なんでしょう、見えない敵と戦っていたんですかね(笑)。
――なかなかデビューできない、という焦燥感やくすぶる気持ちはあったんですか?
- まんしゅう
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そりゃ、ありましたよ。なんか20代後半って、「30歳になったら終わり」という漠然とした焦りが出てくるんですよね。
ほら、バンドマンも30歳までに芽が出なかったら田舎に帰るとか言いがちじゃないですか。ロックスターも、30歳になる前に死んじゃったりするし。
――30歳前に結婚をされたのも、ひょっとしてそういうタイミングが関係していますか……?
- まんしゅう
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うん、あるかもね。わたし、旦那もふくめて3人としか付き合ったことがないんですよ。
ブログにも描きましたけど、1人目が、ボコボコに殴られたり、包丁で脅されたりして、最終的にストーカーみたいになっちゃった人。2人目が、下ネタが通じないほど真面目で、別れ際にわたしが寝転がってダダをこねてドン引きされた人です。
――あらためて聞いても、すごい恋愛遍歴ですね(笑)
- まんしゅう
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で、3人目が当時の職場で出会った男性で、28歳のときに結婚しました。実は、前の年に妹が先に結婚したのが、けっこうプレッシャーだったんですよね。
埼玉ってなんだかんだ田舎だから、周りもそのくらいの年になるとみんなもう結婚してるんですよ。
父親もあからさまにお見合いの話を持ってきたり……。それで、焦って結婚したみたいなところもあるかもしれない。
――そんな焦りと閉塞感のなか、ちょうど30歳で投稿した作品が、ちばてつや賞に準入選するんですよね。
- まんしゅう
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そう、実を言うと、それまで数ページ描いては「クソつまんねえ」と途中で投げ出してばっかりで、その作品を投稿するまで、一作描き上げられたことがなかったんですよ。
昔から、自分の中でハードルを高く設定しすぎるクセがあって。
――その頃から人一倍、自分に厳しかったんですね。
- まんしゅう
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小説や漫画の指南書に、よく「まずはとにかく一作最後まで仕上げてみること」って書いてあるじゃないですか。
今さらですけど、あれは本当に大事(笑)。描き上げてみるまで、自分が描きたいのが少女漫画なのか青年漫画なのか、自分の作風すらわかってなかったですから。