旅先のすべては大きな始まりの予感をくれる

帰りのフェリーの中で、彼女にぼんやりと思いを馳せた。
今回の旅の中で、奥様同士の仲良し旅や、熟年夫婦の二人旅には何度も遭遇したけれど、彼女の世代の女性の一人旅は珍しかった。どういう経緯で旅に出ることになったのか。もしかしたら何気ないことかもしれないけれど、もしかしたら5年前、終わりを始まりに変えたかった私のように、彼女もまた、物語を抱えていたのかもしれない。

場末のスナックにナンパ。意地で食べた素麺に、思いがけず辿り着いた絶景温泉。あのときの旅で私は、沢山の未知なる世界を垣間見た。決して小説のように美しいばかりではなかったけれど、それらの要素は私の安易な「そして旅に出た」に、大きな始まりの予感をもたらしてくれた。

女の一人旅には、いつだって物語がある。恋人や友達、複数人で行く賑やかな旅行には決してない、静かな、それでいて力強い物語が。それまで仕方なく向き合ってきた孤独をいよいよ両手で抱え込む。その覚悟を決めた者には、希望に満ちた新たなる物語がちゃんと用意されている。心配なんてしなくていいのだ。

Text/紫原明子

※2015年10月21日に「SOLO」で掲載しました