再訪したサン・オリーブ温泉で出会った女性
今あれから5年経って、私は先日、再び瀬戸内を訪れた。今回は子どもたちと、直島・豊島・犬島の美術館めぐりをして、最終日に、ここまできたらやっぱりねってことで、強行スケジュールの中、小豆島に渡った。目的は当然、サン・オリーブ温泉。12時のオープンまで少し時間があったので、バスに乗って島を散策。すると驚くべきことに素麺を食べさせてくれる店ができていた。私の願いがいつの間にか島民の皆さんに届いていたのだ。
食べなければバチが当たるなってことで、食べた。するとお会計のとき、食べた量と同量の素麺(乾麺)を、お店の人がおみやげと言って渡してくれた。経営の方は大丈夫なんだろうかと老婆心ながら心配になった。
素麺屋さんも増えたし、観光客も増え、5年ぶりの小豆島は賑やかになっていた。
それでも、サン・オリーブ温泉は以前と変わらず、ひっそりと営業していた。こんなに素晴らしいのに別段推されていない様子を見て、やっぱり好きだなと思った。地元のおばあちゃん達に混じってお風呂に入る。5年前と変わらぬ景色、5年前と変わらぬ心地よい海風をひとしきり堪能。やっぱりこのためだけに来てよかった、と満足感で胸をいっぱいにした。
脱衣所で帰京のための身支度を整えていると、同じく風呂あがりの、おそらく50代半ばの女性に「地元の方ですか?」と、声を掛けられた。東京からなんです、と答えると、「私もね、東北からきたの、一人旅なのよ」といたずらっぽく笑って言う女性。
「昨日から来てるんだけど、ここは最高ね。正直他はあんまりだったけど、ここは別格。わざわざ来るだけの価値がある」
そう、そうなんですよね!と、私はもう過剰に賛同した。一人で小豆島にやってきて、特に目立ちもしない市民価格の温泉に何気なく入ってみたら信じられない天国だったっていう彼女の驚き、そして喜び。その全てが、手に取るように私には分かった。
「私も5年前に一人旅でここにきて、あんまりにも良かったから、このためだけに今日、また小豆島にきたんです」
そう言うと、彼女も、あらそう、そうよねえ、と嬉しそうに深く頷く。
支度を終えると、お気をつけて、よい旅を、とお互いに言い合って、脱衣所を後にした。