努力至上主義の私たちの新星 こんまりさんこと近藤麻理恵さん
……とはいえ、だてに努力至上主義の世界でもまれていない私たち、スピリチュアルが所詮「スピリチュアル(笑)」であることもまた、心のどこかではちゃんと知っている。
万札と引き換えに、ほんのひとときの避難所を照らしてくれるカンフルに過ぎないということもまた、重々承知なんである。
で、そんな私たちの前に昨今、新星のごとく登場したのが「片付け」という新たなる信仰だ。
こんまりさんこと近藤麻理恵さんが、アメリカの新聞が企画する世界で最も影響力のある100人の1人に選ばれたというニュースが話題になった。
こんまりさんはご存知、「人生がときめく片付けの魔法」の著者である。
現在、書店に行くと、この類似本がごまんとある。「人生が変わる」「運命を変える」「恋愛に効く」片付け本は揃って開運に紐付けられている。
停滞する日常を切り開くべく、自分磨きにあらゆる手を尽くした女性たち。しかしどうにもならないフラストレーションは、ついに自分という枠を飛び越え住環境にまで波及。
小さな箱の中におもちゃや人形で世界を表現する「箱庭療法」なる心理療法もあるくらいだから、自分の深層心理は何かしら空間に反映されるものなのだろう。
ところが、「家が汚いから私の恋愛はとっちらかってる」という状況分析では決して終わらない。
「片付けて開運」というさらなる自助努力に繋げるところが、私たちの、大変にけなげで、いじらしいところである。
しかし事実として、片手で拾い上げられる小さな石ころもあれば、10人がかりでも動かせない岩だって世の中にはある。
同じように、生きていく中で直面する様々なことには、努力でなんとかできるものと、努力したってどうしようもないことがあるのだ。
それをひとくくりに全部自分の力でなんとかしようと思うのはあまりにも自分に鞭打ち過ぎだし、ある意味で傲慢でもある。
人間一人の力なんて全然大したことない。その事実はもっと謙虚に受け入れて、ときには潔く諦めたりなんかもしたっていいと思うのだ。
息切れしないように、伸びやかに生きていく。そのための努力だけを、惜しまないようにしたい。
Text/家入明子
※2015年5月20日に「SOLO」で掲載しました