退屈な毎日に、別の角度から光を当てる

なかでもミランダが最後にインタビューをした、クリスマスカードの表紙部分50枚を売りたい81歳のジョーは、『ザ・フューチャー』にご本人が登場する。ジョーは、エロい詩を創作しては奥さんに披露している変わり者の老人だ(まあ、エロい詩を披露しているということで、結婚して62年経つのに仲が良いのは素敵なことである)。「セックス」で韻を踏む単語を探すために図書館で調べ物をする真面目さには思わず笑ってしまうが、もちろんジョーはウケ狙いでそんなことをしているわけではない。

自分では普通のこととしてやっていても、他者の目を通すと珍妙でおかしくて、捨てたもんじゃない。見知らぬ白人夫婦の船旅のアルバムを売りたい、ギリシャ移民の中年女性パムもそうだ。パムはアルバムのなかの、晩年に船旅をするリッチな白人夫婦に憧れていて、自分の人生はなんだか退屈だと思い込んでいる。でもインタビュアーのミランダからすると、17歳で結婚してギリシャからアメリカに移住したパムの人生のほうが、よっぽど感動的で味わい深いように思える。

自分の目で見る自分の部屋や人生は、変わりばえせず、退屈で、良いのか悪いのかもよくわからない。だけど、カメラや他者の目を通して見つめてみると、誰のどの部屋も人生も、珍妙でいびつで、しかし魅力的なのだ。

『あなたを選んでくれたもの』は、退屈な毎日に、別の角度から光を当てる方法を教えてくれる。きっと私やあなたの人生も、他の人からすると、すごくおかしなことになっているにちがいない。インタビュイーたちの写真も豊富で目も楽しいので、ちょっと日々に飽き飽きしている人がいたら、本書をぜひ手にとってみてほしい。

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。