ホステスのバイトをしていた頃、仕事の関係でドイツに5年住んでいた経験を持つとある男性が、こんなことを言っていた。「ドイツには、キャバクラやガールズバーなんてなかったよ。バーで個人的に交渉するとホテルに来てくれる娼婦はいたけど、帰国すると、日本の性風俗の多様さに改めて驚かされる」。男性の話を聞いて私は、なるほど、へえーと感心した。
たしかに、日本には様々な種類の風俗が存在する。キャバクラやガールズバーといった、ただ「おしゃべり」を楽しむ店。こういった店は案外厳しいところがあり、私が所属していた店は、お触りが一切NGだった。かと思えば、お店の女の子に密着するのがOKな“いちゃキャバ”もあり、おっパブ、ピンサロ、デリヘル、ソープと、目的とお財布に応じて、日本には実に多様な風俗がある。国内で暮らしている私はこれを当然のことだと思い込んでいたが、そうか、海外(特に欧米?)にはこういう店がないのか!?
今回は、田房永子さんの『男しか行けない場所に女が行ってきました』を参考に、学者でもなんでもない私が簡易的な「性風俗文化人類学」をお送りしたいと思う。
日本の「その発想はなかった」性風俗
『男しか行けない場所に女が行ってきました』は、著者の田房永子さんが、エロ本の仕事を通じて日本国内の様々な風俗店を渡り歩き、考えたことが記されているエッセイである。男性向けのエロ本の仕事をしていたときの田房さんは、そこで自身が本当に感じたこと・考えたことを封印しなくてはならなかった。なぜならエロ本では、インタビューをした風俗嬢がどんなに無愛想でも、その姿をそのまま書くことはできないからだ。実際の現場が超重苦しい雰囲気でも、雑誌には「エッチなお店で働く21歳ピチピチのマリンちゃん☆」とポップに書かなければならない。そういうわけで、当時は封印せざるを得なかった田房さん自身の様々な思いが開陳されているのが、このエッセイなのだ。
日本に様々な性風俗が存在することは私も常識として知ってはいた。しかしこのエッセイを読むと「その発想はなかった」と、改めて感心する。人妻アロマオイルマッサージ店くらいならまだしも、ドール専門風俗店、密着型理髪店、パンチラ喫茶にオナニークラブ。女性向けにはいまだにホストクラブくらいしかないことを顧みると「楽しそうだな~」と思うものの、さきほどのドイツ在住経験がある男性の言葉を思い出すと、日本の環境がちょっと特殊なのかもしれない。
エッセイを読みながら、本当に海外には娼婦くらいしかいないのだろうか? と疑問に思ったので軽く(Googleで)調べてみたのだが、欧米の性風俗はやはり日本に比べると、豊穣だとは言いがたい。ドイツにはFKKというハプニングバーのような店があることがわかったが、おっパブだの密着型理髪店だのは、ない。
それなら東南アジアはどうだろうか? と調べてみたが、とりあえずベトナムには、ピンサロのような形態の店があることはわかった。ただアジア圏のキャバクラは、どうも「お持ち帰り」が前提のようだ。店でお酒を飲みながら女の子とおしゃべりをして、気に入った子がいたら交渉してホテルに行く。日本のキャバクラでホテルに行く値段交渉などしたら一発で「キモ客」の烙印を押されてしまうから、このあたりはまさしく文化の違いである。なんというか、海外の風俗はあくまで「抜く」ことに最終的なゴールが置かれているが、日本には「抜かないでドキドキするだけ」の風俗がある。独特の環境だと思う。
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