ラブホでイヤな予感…初めて他人の生セックスを見てしまった話/中川淳一郎

とにかく酒癖の悪い弘美さんと一時期よくラブホテルへ行っていた時期がある。サシ飲みをして酔っ払うと「おい、ニノミヤ、ホテル行くぞ!」と言い出すのだ。そして、満室の場合は「早く空いてるホテルを見つけろ!」と怒り出す。

この日は真昼間から飲み始めていた。僕は時間の融通が利くフリーランスなのでいかようにもなるが、彼女は正社員なのに一体どうしてこんな13時30分から酒が飲めるのだろうか? 彼女はこう言った

「打ち合わせを14時から3件社外でやっていることにしているので大丈夫。その後は会社に戻らないことになっているし、その仕事はメールでなんとかなったのでもう終わってる。私みたいに効率のいい仕事ぶりで結果を出している社員がいるのに、他の社員はああだこうだと余計な打ち合わせばかりやっていてバカみたい」

かくして1時間半ほどの飲みが終わった15時、彼女と一緒に渋谷のラブホテル街へ行ったのだが、たまたま入ったホテルは空室が案外多かった。怒られないで済む。もっともこんな時間にホテルが満室だったらそれはそれで日本経済が心配になってしまう。弘美さんは、僕が押したパネルの部屋番号を知っていたのだろう。鍵を受け取った後彼女は「こっちだよー」と半地下へ向かう階段を降りていく。何やらイヤな予感がするが、もしかしたら彼女はこのホテルに詳しいのかもしれない。

生まれて初めて生のアレを見てしまった

そして「ここだよー」と言うと彼女はドアをいきなり開けようとする。ちょっと待ってくださいよ。鍵がなくちゃ入れませんよ、と苦笑したのだが、なんとドアが開いた! そして「わっ!」と弘美さんは驚いた声をあげたが、部屋の中からも「わっ!」という声が聞こえた。

なんと、腹がぽっこりと出た男がまさに正常位でピストン運動をしている場面だったのだ。相手の女性の顔は見えなかったものの、一体なんというタイミングで他人のセックスを見てしまうのだ。弘美さんも僕も「ごめんなさい! 部屋を間違えました!」と言って走って階段を上がった。一体なんということだ。生まれて初めて、そして一生で唯一の他人のセックスを映像以外で見た瞬間であった。

どうも彼女は僕が「204」のパネルを押したのを「104」だと勘違いし、半地下の1階へ行ってしまったようだ。僕が利用してきた多くのラブホテルはオートロックだったがここは違うようだ。「104」に入った2人は興奮のあまり鍵をかけることを忘れてしまったのだろう。とにかく我々は同じことが起こらないよう、鍵を閉め、念入りにチェーンも付けた。