先日、あるモデル(名前は出さないが察してほしい)の夫が、恐喝容疑で書類送検になったときのことである。Twitterをぼーっと眺めていたら、とある「ナンパ師」を名乗るアカウントが、こんなことを呟いていた。いわく、「やっぱり女はこういう、(書類送検されたモデルの夫のような)喧嘩っ早いオラオラ系が好きなんだな。改めて、女はバカな生き物だと実感」とのこと。おいお前、なんだと!
彼の呟きには突っ込むべきところがたくさんある。しかし、「結局女は、優しくて誠実な男よりも、強引で粗野なオラオラ系が好きなんだろ?」と妬む気持ちは、彼だけでなく、男性のなかに深く根差しているものらしい。
北村紗衣さんの批評集『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』でも、ある戯曲を用いてこのことが説明されているのだ。
父を殺したオラオラ系
『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』は、シェイクスピアが専門である批評家・フェミニストの北村紗衣さんによる批評集だ。戯曲から映画からバーレスクまで、さまざまな作品の考察が並んでいる。その中で、「やっぱり女はオラオラ系が好きなんだろ現象」は、アイルランドの戯曲『西の国のプレイボーイ』を例にひもとかれている。この戯曲は1907年が初演とのことなので、「やっぱり女はオラオラ系が好きなんだろ現象」は、100年以上前から男性たちの間で意識されていたことになる。
『西の国のプレイボーイ』では、父親を殺してしまったクリスティ・マホンという男が、ある村にやってくる。村の人々は彼のことを「父を殺すなんて大胆だ」と褒め、クリスティは村の英雄のような存在になってしまう。当然、村中の女性たちがクリスティに夢中だ。パブの跡取り娘で美人のペギーンも、クリスティにぞっこん。しかし、ペギーンには敬虔なカトリック教徒であるショーンという婚約者がいた。父を殺したオラオラ系に婚約者をとられてしまって、これでは誠実で優しいショーンがかわいそう……となりそうなものだが、そうはならないのが『西の国のプレイボーイ』である。
実は、ペギーンはショーンをまったく好いておらず、最初から眼中にない。しかも、そのことをきちんと本人に伝えてもいる。それにも関わらず、財産があって結婚適齢期であるというだけで、ショーンは、ペギーンと結婚するのは自分だと思い込んでいるのだ。ショーンのこの一方的な思い込み、めっちゃヤバイし、怖い。女性の意志を無視する、話を聞かない、勝手に決めつける、これらはすべて「誠実で優しい」とはかけ離れた要素のはずだ。しかし彼はなぜか、「自分は強引でも粗野でもなく、誠実で優しいのだ」と思い込んでいる。
たしかに、「ワル」に憧れる時期というのは男女関係なくあるだろう。だけど「女は結局、誠実で優しい男よりもオラオラ系が好きなんだろ?」は誤りである。これに対する返答は「女はオラオラ系が好きなのではなく、ただ、あなたが誠実でも優しくもないだけだよ」といった感じになるのだろうか。
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