「本当は嫌だったこと」を考えるきっかけに

環菜のように父親を殺すところまで追い詰められる人は稀であっても、見えないところで、誰にも気付かれないまま(あるいは、自分でも気付かないまま)「本当はものすごく嫌だったこと」を溜め込んでいってしまう「いい子」の女性は、少なくないように思う。
もしも可能なら、そんな「本当は嫌なこと」を、明日から1つずつでも手放していけたらいい。だけど長年かけてついてしまった癖もあるし、そう簡単にいくものでもないだろう。私も、明日から急に人の心の機微に敏感になれと言われても、「わかりました」とすぐにできるわけがない。周囲の人との関わり方を、いきなり変えるのは難しい。

「好きじゃなかったら、好かれなくてもいいと思わない?」
「だけど私のことすごく好きだって言って、心配して、たくさん優しくしてくれたし」
「その優しさは、あなたが求めたものだった?」

由紀は執筆のためにたびたび環菜のもとへ面会に訪れては、会話して彼女の背景を探っていく。環菜は何に傷付いていたのか、本当は何があったのか。明日からいきなり周囲の人との関わり方を変えるのは難しい。だけど、ミステリー仕立てになっている『ファーストラヴ』を読みながら、自分が心の奥で本当は何を感じていたのか、環菜の背景とともに考えることくらいはできるかもしれない。

「動機はそちらで見つけてください」と逮捕された環菜はいうけれど、苦しくてもおそらく犯罪者にはならない多くの女性は、「本当は嫌だったこと」を自分で考えぬかなければいけない。
『ファーストラヴ』はけっこうヘビーな小説なので気軽には読めないかもしれないけど、「いい子」という言葉に胸の奥がチクっとする女性、あるいは私のように他者の心の傷に気付きにくい人(男性含む)には、ぜひ一読をお勧めしたい。
考えること、想像することを、きっと手助けしてくれると思う。