これからも続いていく生活のために。今だからこそできる純喫茶との関わり方/難波里奈

やっとたどり着けた「純喫茶ザオー」

純喫茶ザオー

桜も開花したというのに、気持ちを塞ぐニュースがなかなか減らない春ですね。不安が重なるうちに体調面だけではなく、精神面にも疲れが出てくる頃だと思いますので、自分なりのストレス発散方法を見つけて、どうにか収束するまでの間少しでも健やかに過ごしたいものです。

数名以上の集会が自粛を求められている今、通年のような花見はできませんが、それでもこぼれるように美しく咲いている桜たちをまったく見ないで過ごすのはもったいないもの。せめて、最低限の外出の帰り道や急用の道すがらに、さりげなくそこにある桜の木を眺めてみてはいかがでしょうか?
先週の晴れた土曜日、どうしても外に出ないといけない用事が午前にあったため、帰りに少しだけ遠回りをして花を愛でた途中で寄った、素晴らしい純喫茶についてお話します。

その存在はずっと知っていながらも、訪れてみようと思い立ったのは2019年の12月のこと。外観の様子から、おそらく閉店時間が早いお店だろうと勝手に推測し、営業していそうな早めの時間に降り立った西武鉄道新宿線の沼袋駅。

駅前には活気のある商店街が長く続き、年末の浮かれたムードも手伝って個人商店で餅やケーキなどを購入しながら目的のお店へ向かっていたのですが、寄り道しすぎてしまったのか先ほどまで営業していたことが分かるほのかな灯りが奥に見えるも、地上から10㎝を残して閉じていたシャッター。その無念な日を塗り替えたのが先日の良く晴れた午後でした。

通りに面した橙色のファサードには「純喫茶 ザオー」と書かれ、程良く褪せた青色のタイルに期待が膨らみます。

営業中、の文字にほっとし、扉を開けると想像以上の美しい空間が広がっていました。「いらっしゃい」と迎えて下さったマダムは「もう50年以上営業してるのよ」と素敵な笑顔。ポマードよけの白い布が掛けられた椅子に腰掛けてぐるりと見渡すと、花の形になっている鉄製の仕切り、テーブルに飾られた黄色い造花、カウンターの上に吊られたまるいランプなど、ときめく要素が店内にはいくつも。

純喫茶ザオー
純喫茶ザオー
純喫茶ザオー

壁に掛けられたメニュー表の中で一際目を惹いたのは「クリムパイロゲン」という文字。いったいどんな飲み物かと尋ねてみると、「とっても体に良いのよ。これを飲むようになってから風邪もひいたことがないの」という答えが。テーブルに運ばれてきたのは、一見黄色いクリームソーダに見えるもの。しかし、その液体はレモン味ではなく、もっと酸味の強い酢のような味で、喉が渇いているときや暑い日には一気に飲み干したくなる爽やかさでした。

純喫茶ザオー

通りを走る車の音をBGMに、このお店が出来た当時のことから現在の世の中のことまでしばらく雑談。普段なかなか接することのない年代の方たちとのおしゃべりは自分の知らなかったことや視点の違う解釈に出会えるのがとても楽しく、それも純喫茶を巡る醍醐味だと思っています。

先のことを誰も断言できない現在ですが、生活は続きますし、生きていかなくてはなりません。落ち着いた後に自分の好きなお店や場所がなくなってしまうのはとても困りますので、適切な情報収集を行いつつ、体調や状況を見ながら(純喫茶の店主には高齢者も多いのでその辺りの配慮は必須)なるべく混雑していない純喫茶たちにお邪魔していきたいと思っています。
前回綴ったように、コーヒーチケットの販売があるお店では未来の楽しみとして購入することも続けていきます。

Text/難波里奈

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