マスターたちの“純喫茶論”は人生の教訓に
一時やってきた暑さはどこへ行ったのでしょう。雨降りの肌寒い日々が続くなど寒暖差があるこの頃ですが、体調を崩されていませんでしょうか? じめじめとした季節でも、ふと路肩で見かける紫陽花はいつも夢のように綺麗ですね。
さて、先日6/9(日)の午後に、阿佐ヶ谷ロフトAにて【純喫茶マスター大集会】というイベントを開催しました。
100名ほど入れる会場にも関わらず、チケット発売からわずかで満席になるという幸先の良いスタートを切り、終演後にマスターたちと駅のホームでお別れするまでの楽しい時間はあっというまの出来事でした。
開催のきっかけは、2019年になったばかりの寒い日に、私の元に一通のメールが届いたこと。送り主は、イベントスペース 阿佐ヶ谷ロフトAの女性でした。そこには熱心に純喫茶へ足を運んでいるという愛情こもった文字たちが綴られていたのです。
少し忙しい時期でしたので一瞬迷ったものの、やはり詳しくお話を伺ってみたいと思い、約束の地・阿佐ヶ谷へ。店内から顔を出した奥原さんは、笑顔が可愛らしくはつらつとした女性で、「上京してきてまだ友人も少なかった頃、純喫茶が心の支えでした」と話して下さったその姿に好感を持ち、イベントの開催を決めました。
当初は、私が今までに撮りためた純喫茶たちの写真を展示し、その傍らでトークをしてはどうかという提案でしたが、メインホールを借りることができるならば密かにあたためていた「マスターたちが一堂に会す」企画を実現したい、と打ち明けたところ2つ返事でご快諾下さり、そこからはご出演頂くマスターへの依頼やスケジュール作成、詳細の打合せ等を経て、とんとん拍子に告知まで進んだのです。
一番緊張したのはやはりマスターたちへの打診でした。今まで何度も取材等にご協力頂いていたものの、貴重な日曜日の午後に時間を割いて頂くなんて失礼にあたらないだろうかなど、今後の関係性のことも考えてなんとお誘いすれば良いか悩んでいたのです。しかし、思い切ってお声掛けしてみたところ、皆さん快く「出るよ!」と仰って下さり、その優しさに心からほっとしたのでした。
そして、当日。お集まり下さったマスターたちは、神田エース・清水さん、虎ノ門ヘッケルン・森さん、目黒ドゥー・嵯峨さん、3月に惜しまれつつも閉店した駒込アルプス・太田シェフ、そして、新宿らんぶる・重光さんという素晴らしいメンバー。
会場では、珈琲豆の販売や阿佐ヶ谷ロフトAが再現して下さった各店舗の名物メニューの提供(エースののりトースト、ヘッケルンのジャンボプリン、ドゥーのクロックムッシュ、らんぶるのミルクセーキに、5色のクリームソーダ)、雑誌『東京人』と『純喫茶の空間』の販売など、さながら一日限りのお祭りのようでした。
前半は各店舗の自己紹介を兼ねてマスターと私が10分ずつ話し、休憩を挟んで、後半は5店舗のマスター全員揃って“純喫茶論”という形に。参加者の方から頂いた質問に答えていくのですが、その回答にマスターたちのキャラクターが爆発し、予想以上に沸き上がる会場。
「居心地の良いお店としてずっと続けていくには?」という質問には、「適切な距離感」「もやもやした気持ちは歌で発散する」「怒りを翌日に持ち越さない」「考え過ぎない」「ストレスを解放する場所を見つける」という各店舗の個性溢れる回答が出たり、これからの日々に活かすことのできそうな教訓や、ほろりと涙が出そうになる言葉、思わずくすりと笑ってしまうエピソードもありました。
マスターたちの生きてきた年月がぎゅっと詰まっていて思わず感慨深くなる瞬間が多々あり、私は錚々たるメンバーのお相手をするのに必死でしたが、自分がもし二人いたならば会場側でゆっくりメモを取りながら聞いていたかったなあなんて思うほど、濃厚な時間でした。
片付け中も和気あいあいと談笑される5人のマスターたちの様子を眺めて、イベントとしての成功はもちろんですが、なにより素敵な純喫茶を営業して下さっている皆さんたちがこの場で繋がった瞬間を目の当たりにした喜びはひとしおで、今後もまた色々なお店のマスターたちをお誘いして定期的に開催していけたならと思うのでした。
訪れて楽しい純喫茶、食べて美味しい純喫茶、話してもっと好きになる純喫茶。
最後のまとめの挨拶でヘッケルン・森さんがおっしゃった「純喫茶は永遠です!」という言葉を胸に、大切だと思うお店にはこれからもどんどん足を運んで、好きだという気持ちをきちんと伝えていきたいと強く思ったのでした。
(※イベントの詳しい様子は、#純喫茶マスター大集会で検索するとたくさんのレポートをご覧頂けますので是非!)
Text/難波里奈
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