閉店していくお店への想い
厳しい寒さに終わりが見えてくると同時に、花粉症の人々を悩ませる季節となりました。
春を満喫したい気持ちとは裏腹に、外へ出るとムズムズすることが多くもどかしくもありますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか?
新しい春を迎えるための3月は、やむを得ない別れや色々な環境に翻弄される時期でもあります。学校や職場など主たる環境はもちろん、行きつけのお店などにも変化が。愛する場所がある人たちにとって、何度目にしても悲しい「閉店」の2文字。
純喫茶も例外ではなく、今年も2軒の老舗がその歴史に幕を閉じようとしています。
1つは、浅草の「アンヂェラス」。
かつて、手塚治虫や池波正太郎も通ったというクラシックな空間は、いつ訪れても賑わっていて、1階から3階まである喫茶室では老若男女がそれぞれの時間を満喫している様子が見られて、とても微笑ましいものでした。
遠くはない未来だった「創業100周年」を目前に、建物の老朽化という仕方のない理由で閉じてしまうさみしさ。アンヂェラスがどれだけ愛されていたかは、営業している姿を自分の目に焼き付けようという人たちが作る連日の行列を見れば一目瞭然です。
もう1つは、駒込の「アルプス」。
店内に入ると視界に飛び込んでくる東郷青児の大きな絵を眺めながら過ごすことの出来る喫茶室が印象的です。
重厚な材木で作られた階段の手摺、アーチを描く美しい天井。ゆったりとした席と落ち着いた空間でいただく白鳥の形をした「スワンシュークリーム」、季節によって2種類から選べるモンブランをはじめとした宝石のように綺麗で美味しいケーキたち。
勝手ながらどちらのお店もいつまでもそこにあると信じて疑わなかったのですが、思いがけない形で訪れる別れの日。誰かがはじめたものである以上、閉じる理由もそれぞれです。
思い入れがある分、寂しさは募るものの、営業している間にたくさん訪れることができていたならば、最後の日には今までの感謝の気持ちを胸に、気分良く見送りたいものです。
「今までの美しい喫茶時間をありがとうございました」
有名なお店に限らず、自分の暮らす街にあるお気に入りのお店もずっと営業しているとは限りません。後悔のないようできるだけ多く足を運び、好きな気持ちを存分に伝えていきたいですね。
珈琲一杯の料金で楽しめる美しい空間でのひとときを過ごすために、今日は寄り道をして帰りませんか?
Text/難波里奈
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