旅先でのモーニングの楽しみ
旅先で目的の駅に着いた時、皆さんはまず何をしますか?私はいつも駅周辺の純喫茶を探します。
気分を切り替え、珈琲を飲みながら一日の予定を組み立てるためです。
日帰り旅行が可能で好きな街の一つとして思い浮かべるのは、長野県松本市。
美しい自然があり、美味しい洋食屋、松本民芸用品を基調とした雑貨屋などが軒を連ねるコンパクトな街は、散策に最適です。
かつて何度も訪れた馴染みのある場所に、純喫茶に関する打合せのため出掛けてきました。
今回は、何気ない話から繋がった純喫茶でのこの先も続いていくご縁について話します。
今回の旅の目的の一つは松本市で行うイベント会場として利用させてほしいというお願いのために訪れた『珈琲美学アベ』でした。
交渉の途中、さらに東京で行うイベントでも珈琲を淹れる実演をして頂けないかと提案しました。
すると急な依頼にも関わらず、マスターは「面白そうだから」と二つ返事で快諾して下さったのです。
その優しさと決断力のおかげで先日開催された東京でのイベントは大盛況に終わることが出来ました。
そんな素敵なマスターがいらっしゃる珈琲美学アベは松本駅から歩いて数分。
看板や入口のマットに描かれている髭を生やした男性のイラストが目印です。
彼の名前は「セニョールアベ」。店名の通り、こちらは二代目マスターである安部さんとご子息の三代目で営まれています。
純喫茶が年々減少していく原因の1つとして「後継者不在」が挙げられるため、すでに頼もしい後任者がいることには純喫茶愛好家として感動しました。
店内には、現在ではあまり見かけなくなった電話ボックスがあり(携帯電話で通話したい時に使用されるそう)、骨董品と思われる古めかしい黒電話が現役で使用されているなど、至るところにマスターの美学を感じることが出来ます。
メニューには選べるモーニングセットやモカクリームオーレなど美味しそうな文字が並びますが、必ず珈琲もご一緒に。
長い年月をかけて習得したマスターの技による「完全抽出」珈琲が自慢の一品です。
実際にネルドリップで珈琲を淹れる作業を拝見しましたが、抽出後の珈琲粉の表面はまるでとろけたチョコレートのようになめらかでした。
熱い珈琲を一口飲めば、レシート裏にある「悪魔のように黒く、天使のように優しく、恋のように甘い、珈琲のひととき…」という文言にも納得。
長い間愛されている純喫茶には何度も会いたくなるマスターの存在が欠かせないものだとしみじみと思うのでした。
Text/難波里奈
※2016年3月14日に「SOLO」で掲載しました
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