純喫茶まきしむの店内写真 まきしむ

東京駅から広島駅まで約4時間。そこから目的の三原駅まで1時間と少々。ほぼ始発の新幹線に乗るため朝4時に起床しましたが、到着までの間、頭の中はこれから出会えるであろうまだ見ぬパフェのことで満たされ、疲れを感じることはありませんでした。
目当ての純喫茶の名前は『まきしむ』。焦る気持ちを抑えて、まずは外観の様子を楽しみます。その数か月後に灯りが点らなくなってしまうことを全く想像させない、堂々とした煉瓦造りの建物です。
紫色の扉を開けると、予想に反して店内では多くの人たちが寛いでいました。私のように1杯のパフェを求めて全国各地から来たのでしょうか? 恐らくそうではなく、週末はこちらで朝食をとるのが習慣、といった常連客の空気をまとっている方々のようでした。

さて、こちらへ来た目的である「フルーツパフェ」。早速、注文を取りに来て下さった店員さんへお願いすると、返ってきた言葉は「売り切れ」。何とも拍子抜けしてしまいましたが、チョコレートパフェとシューパフェはまだあるということでしたので、思いきってどちらも注文。

純喫茶まきしむの店内写真 まきしむ

何しろ初めて訪れる店でボリュームも未知数でしたが、運ばれてきたパフェの大きさを見て思わず声が出ました。30㎝程ありそうな高さのパフェは果たして1人前なのか、と思ってしまうほど。しかし、うっとりする盛り付けです。ガラスの中のパフェは側面から見ても上部から見ても美しく、食べ進みながら眺めると、次々に姿を変える芸術品のようです。
ふと周りを見渡すとほとんどのテーブルにはパフェが並んでいました。嬉しそうに食べる店内の笑顔たちを眺めては、広島まで来て良かったと思うのでした。

帰り際、閉店を惜しみ東京から来た旨を伝えると「それならフルーツパフェを出したのに!」とのお言葉。どうやら人気メニューのため個数限定だったようです。しかし、チョコレートパフェとシューパフェも十分美味でしたので、その心遣いを嬉しく頂戴しました。

閉店により、マスターのパフェ作りの腕前がもう披露されないことを心から残念に思いましたが、今までに何百、何千と作られたパフェたちは、訪れた人たちの思い出としてずっと鮮やかに残ることでしょう。このように、思い出に残る瞬間として存在する純喫茶での時間。いつかどちらかの純喫茶で皆さまとばったりお会い出来たら、と思います。

珈琲を飲むために、ぼんやりするために、誰かを待つために、マスターとおしゃべりをするために・・・。
次回以降の連載でも、1人で楽しい時間を過ごせる純喫茶を紹介させていただきますので、よろしくお願いします。

Text/難波里奈

※2015年11月11日に「SOLO」で掲載しました