ホールデン・コールフィールドは、モテない
さて、物語のなかのホールデン君は16歳です。高校生に手を出すわけにもいかないし、なぜいい年になった我々がパートナー欲しさにこの小説を読まなければならないのか、と疑問に思う方もいることでしょう。しかし、私はみなさんに、この神経質で融通が利かなくて、さらにガールフレンドに暴言を吐いたり唐突に泣き出したりするこの扱いづらい少年が、15年後、どんな男に成長しているかちょっと想像してみて欲しいのです。
15年後、31歳の男になったホールデン君は、まあ間違いなくモテないです。たとえルックスが良かろうと、お金を持っていようと、有名企業に勤めていようと、神経質で融通が利かなくて何を考えているのかよくわからないところは、きっと16歳の頃とあまり変わっていないだろうから。女性って、そういう男性を敬遠しますよね。まあ、せっかく行ったデートでスカスカとかいわれたらこっちだってちょっと黙ってはいられません。
だけど31歳のホールデン君、たしかに厄介なやつであることは変わりないんですが、でも確実に、悪いやつではないんですよ。それは、この『ライ麦畑』という小説を読めばわかります。なぜ彼はこんなに神経質なのか。なぜ彼はこんなに融通が利かなくて、不器用なのか。その心理は、小説のなかにすべて書いてあります。そしてそれは決して他人事というわけでもなく、あなた自身もかつてどこかで、少なからず経験してきた感情でもあると思うのです。
なぜ彼が面と向かってスカスカなんていったのか、その背景にあるものが、小説を読めばおぼろげながら理解できることでしょう。