私たちが触れたのは
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誰も通らないような薄暗い通りで、「お願い、少しでいいから、触らせて」と言われた。そして頬を優しく撫でられたとき、「ああ、この人は私のことが好きで、とても大切に思ってくれているんだな」と思った。
私が気持ちに応えられないことも、一切の恋愛感情を持っていないことも、きっと知っている。いや、本当の気持ちを聞いたことなんて、今まで一度だってない。でも、そう思った。
直感みたいなものだった。私のその直感には「もしかしたら勘違いなんじゃないか」とか「一過性のものなんじゃないか」みたいな余計な気持ちが一切ないくらい、目の前のいるこの人は本当に純粋な気持ちで、私のことをずっと見ていてくれていたんだと思った。だから、私に触れたんだ。どうにもならない自分の気持ちも、不毛すぎる感情も、ぜんぶ終わりにしたかったのかもしれない。
嘘。本当は、出会ったときからずっとわかっていた。
「もしかしたら、この人は私のことが好きなんじゃないか」
「いやいや、そんなことはない。私のつけあがりすぎた妄想だ。思い過ごしだろう」という2つの考えが頭のなかを行ったり来たりし、会うたびに自分の感覚が揺れていく。
「いや、でも」の疑問や自分のなかではっきりしなかった仮説が、このときようやく形になっただけだった。好きなんだよ。この人は、私が。
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