分岐する枝の数が少なくなるメリット

一昔前よりだいぶ空気は変わったものの、世の中はまだまだ「年を取るのは嫌なこと」という価値観がけっこう残っている。でも実際は年を取ることのメリットもたくさんあって、私はその1つに、「将来の可能性がなくなること」があると思っている。

「将来の可能性がなくなること」は嫌なことなのでは? と思うかもしれないが、私は「結婚するかも、出産するかも」といろんな可能性を考えて準備しないといけなかった20代後半が振り返るとけっこう辛かったので、生涯独身がほぼ確定している現在のほうがライフプランを立てやすく、安心して生きられている。もちろん人生は最後まで何が起きるかわからないのだが、分岐する枝の数が少なくなるっていいよな、と今は素直に思うのだ。

そして、そういう目線で群ようこさんのエッセイを読むと、60代も70代もやっぱりそれなりに楽しいんじゃないか、という気がしてくる。もちろん、本書を読んでも自分が抱えているお金の問題は何も解決しない。でも、年金、親の介護、実家の相続と全然楽しくなさそうな話題を並べた上で「楽しそうかも」と思わせてくれるこのエッセイは、悩み疲れたときの息抜きにちょうどいいと思う。

Text/チェコ好き(和田真里奈)