自分に女を仕込むの気持ちい
全能感、とまでは言わないけれど、若い頃は自分をコントロールできると思っていた。だからこそ、絶対にコントロールしたかった。他者の瞳に映る私まで。でも、当然そんなことは無理だ。まだ平気だと思っていたのに生理は来るし、早起きの前日ほど寝つきが悪い。絶対に忘れちゃいけない約束を忘れることもあるし、最悪の怪我をする時もある。全くコントロールが効かない。操縦席に座っているのは、確かに私のはずなのに。私の思うように私を動かせない時点で、他者から見た私をコントロールするのは無理なわけで、だから、誤解も生まれる。理解してもらえなかったり、先入観を持たれたりもする。当たり前だ。他者も同じように、コントロールの効かない自分を操縦しているんだから。となると、例えば「モテようとしてる」と思われようが「あざと……」と引かれようが、マジでどうでもいいじゃんと考えられるようになったのだ。どうせ勘違いされるし、どれだけ必死にハンドル握ってても意味わかんないタイミングで右折とかしちゃうんだからさ。じゃあもういいじゃん。勘違い、どんとこい。
瞳孔が開いた私はすぐに、胸元がめちゃくちゃ開いた服を買う。となると、そこを彩るアクセサリーも買う。こうして私は30歳にして初めて、デコルテ全開の女になった。風通しの良さで開くチャクラ。凄まじい勢いで全身を巡るホルモン。あーやばい。なんか気持ちいかもしれない。デコルテを全開にするために、タンクトップも沢山買った。肩紐のないブラもまとめ買いした。やばい。めちゃくちゃ気持ちい。なんか凄い、自分が女だって感じる。人生で一番感じる。そしてそれを、面白いと感じる。だからもっと、若い頃なら絶対やりたくなかった服を、メイクを、してみたくなる。今鮭ハラス食ったみたいなグロスを塗って「今鮭ハラス食ったじゃん」とニヤニヤしたり、でかい古着のYシャツを着て「これが他者シャツかぁ」とうっとりしてみたり、くるぶししか見えないロングスカートなのに網タイツを履いたり。楽しい。なんかとってもお姉さんみたい。自分に女を仕込む作業、楽しいが過ぎる。
ギリ東京カレンダーには載せてもらえなそうな自分の姿を見て、あー私、ここに辿り着けてよかったと思った。きっと、最初からやってたらこういう楽しみ方にはならなかった。20代、一生懸命抗ったからこそ、今こうやって、逆の服を楽しむことができている。「女は30から」みたいな言葉、どの年齢でもあるみたいだけど、今の私は完全に「女は30から」。私は30歳で、遂にど正面から自分が女だってことを引き受けられ始めた。もしかしたら数年後には、女にマウントポジション取って別の性別に作り変えているかもしれないけど、それもまた良し。今私には、女がとても似合っている。おすすめのハイライト教えて〜。
Text/長井短
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