セルフケアって結局、自己満足

朝から酒を飲んでみるとか、お風呂に入らず寝ちゃうとか、そんな甘っちょろいもんじゃだめだ。かといって年金踏み倒すのは申し訳ないし、じゃあもう、取り返しのつかないタトゥーでも入れる? どれだけ考えても、逆セルフケアは見つからない。散財してやるって街に出かけても、そんなに思い切ってカード切れないし、泥酔してもコンタクトは外す。あーなんでこんなに難しいの。もう海外とか行けばいいの? はっきり環境変われば、無力だってちゃんと感じられる? いや違う。既に無力なのだ。自分を傷つける勇気もないんだから、無力。ブレーキ踏んじゃう自尊心はそのまま勇気のなさとも言い換えられるわけで、結局、ぬくぬくと自分を大切にすることしかできない私は大した人間じゃない。自己肯定感のように見えていたそれは、ただの思考停止かもしれないし、そもそも本当に自分を大切にしているなら、自分の声をもっと聞いているはずだ。

結局、あーだこーだ言いながら無視してるじゃん私は私のことを。なんだ。全然だめじゃん。そう思うと一気に肩の力が抜けた。ここに自己愛はない。自己肯定感もない。ただ茫然と、夢みたいなことが向こうから歩いてくるのを待っている木偶の坊がポツンとそこに立っている。それが私だ。なんだかなと思いながら、私は静かに私を見つめる。小指だけ禿げたネイルが、どうでもいいって証拠。別にいいよね、どっちでも。セルフケアって自己満足なんだし。なんか自分を好きになりたい日にやればいい。特別に素敵な1日を過ごして愛に満ち溢れても、次の日普通に自分嫌いだったりするじゃん。人生ってそんなもんでしょ? だからもう、必死に自分を愛したり、大切にするノリとはバイバイしたい。

自己肯定感って大したもんじゃない。初めて心からそう思えた私は、淡々と食器を洗う。必要だからやっているだけ。ここには愛も満足もない。必要って、シンプルで美しいな。もっといろんなことを「必要」かどうかで考えて過ごしてみたら、呼吸がしやすくなる気がする。もしもあなたがセルフケアとか自己肯定感とか、そういうのに疲れちゃったら、全ての定規を「必要」に変えてみて。きっと少し楽になるから。

Text/長井短

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