絶対ドキッとさせたいマン!
夏真っ盛り~! 今年はだいぶ遊べそうな夏だけど、みんなクラブ行って吐いたりしてますか? 私はしていません! 二十代最後の夏、なんかそういう「やってしまった」みたいなことをしておきたいって思うけど、そんな思い出既に思い出したくないくらいあるんだからもういいじゃんね、と冷静に過ごしています。あんまり家から出たくもない、と言いつつ時々、無茶苦茶な夜に焦がれたりもして、結局近所に気心知れた友達と飲みに行く。知らない人に声を開けられたのはその時だった。
同い年の女友達と居酒屋で飲んで、彼女のクソみたいな元彼(お前のこと許さねーからな)の話を一通り聞いた後。お腹いっぱいでそろそろ帰る? でもコーヒー飲みたくない? となった私たちは店先で珈琲屋を検索していた。時刻は二十二時を過ぎていて、この時間に空いている喫茶店は多くない。検索が難航している時、まだ幼さの残る男の子の声が耳に届いた。
「お姉さんたち、どっか行くんですか?」
目を向けるとそこには、きっと下北か高円寺でめちゃくちゃ歩き回って買ったんだろうな~って雰囲気の感じの良い古着に身を包んだマッシュの男の子がいた。二人。だるそうに片足重心で立っているわりに何故か肩が不自然に持ち上がっていて、クッソ可愛いな。なんだお前たち、二人揃って緊張してんのか? 自分から話しかけておいて? かっわいいなぁお前たちコラ。
「行かないよ~」
適当に返事をすると、適当な返事が返ってくる。
「え~飲み行きましょうよ」
「行かないよ~」
「え~まだ時間早いっすよ」
治安が良いな、と思ったのは、彼らが私たちに触れようとしたり、妙に近づく素振りがなかったことだ。店先で、お互い次の目的地を探している。だから声をかけてみる。まぁそんなこともあるよねっていうラインを一歩も超えてこない彼らは、クラスにいたら楽しいやつに見える。私は既婚だけど、女友達はフリーだし、もし彼女が行きたかったらいってみるか? と思い視線を送ると、彼女は顔色ひとつ変えずに「行かない」を私に伝えた。マジでどういう方法で「行かない」を伝えきたのかはいまだに解明できないけれど、確実に伝わった。そうと決まったらとりあえず歩こう。二人で店から離れようとすると、男の子は最後の粘りを見せる。
「一緒に行って良いですか?」
「だめだよ」
「え~行きましょうよ~」
「行かないよ。結婚してるし」
「今日は関係なくないですか?」
今日は!関係!なくないですか?!?!なにその台詞!これまでの言葉とは質感が違う。やけに完成度の高いフレーズに思わず振り返ると、彼は「か」と言った口の形のまま微動していて、なんて味わい深いの!
やっと冷静になれました
ファッション誌に載ってるモテフレーズをそのまま使うなんてことはしないけど、なんとなく「こういうのが良いのかな…?」と考えて喋ったことがある。決め台詞みたいな、ある種の必殺技を、誰もが一度は口にしたことあるのでは? 私だってそうだ。どこで習ったのかわからないけど、ドラマかよってくらい適切で恥ずかしい言葉を、誰かに言ったことがある。「今日はよくない?」とか言ったよ私も昔! あー全身が痒い。それは、若さから時間が経ったからじゃない。別にその言葉を言った直後だって痒かった。自分で言ったのに頭を抱えた。実際今、彼も痒くて仕方ないんだと思う。だから微動が止まらないんだよね、わかるよマジでわかるからやめろ!!!!
これ以上先に進んではいけない!ハイタワー三世のいうことを聞きなさい!
「(関係)あります」とだけ返事をして、私たちはスタスタその場を去った。それは単純に、私たちにその気がないからだけど、同時に彼にこれ以上怪我をしてほしくないからでもあった。恥ずかしい思い出なんてもんは、やっぱ少ないに越したことないんだよ。これであんた、もっと会話続けてたらどうなってたと思う? 「俺年上しか無理で」とか言い出したぞ。恥ずかしいぞ~こんなの。「おねえさぁん」なんて甘えた声出してみろ? 家帰って死ぬぞ恥ずかしくて。私にはわかるんだよ。もう傷があるからな。ベッドの中で全身痒くなっても取り返しつかないんだよ。何年も後遺症残るよ。
到着した喫茶店でコーヒーを飲みながら、歳をとるって最高だなと思った。もちろん今の私だって、五年五十年後の私から見たら恥ずかしいことだらけだろうけど。でも少なくとも、私はもう「今日は良くない?」とか言っちゃうフェーズではなくなったのだ。あ~楽。こんなに呑気な世界が未来で待ってるなんて知らなかったな。もっと早くここに来たかったと思いつつ、近道はない。順路に沿ってきたから今があるわけで、二十代、本当ありがとうな。
TEXT /長井短
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