楽しむためでも、生きるためでもなく、死なないために一人暮らしの食事を用意する――『自炊。何にしようか』

by Conscious Design

一人暮らしをしていると、食事が適当になりそう……という声を、同居人がいる女性から聞くことがけっこうある気がする。それはおそらくその通りで、私の普段の食事はかなり雑だ。病気になるとお金がかかるので栄養バランス的なものには気を遣っているけど、逆に言えばそれしか気を遣っていないので、見た目の華やかさみたいなものが完全にゼロである。あと、食に関心がなくメニューを考えるのが面倒なので、5種類くらいのレシピを常に使い回している。

というとすごくかわいそうな生活をしているように思われてしまうかもしれないけど、私に言わせてもらえばこれは、スティーブ・ジョブズがいつも同じタートルネックを着回していたみたいなもの。思うに日本人は「食」への責任感というか意識が高すぎで、食べることが好きな人はいくらでも凝った食事を用意すればいいけれど、私のように「病気にならなきゃいいかな」程度の人は「これはジョブズ・スタイルだから」とでも言って、いつも同じものを食べていてもいいと思う。アルゼンチンの子供たちが社会見学に持参していたお弁当がかなり雑だった話も前に書いたので、食事を作ることにプレッシャーを感じている人は改めて以前のコラムも読んでみてほしい。

そんなわけで適当な食生活を特に変える気もない私だが、「使い回している5種類のレシピ」の入れ替えを行うために、年に何回かレシピ本や料理関係のエッセイを読むことがある。今回はそんな入れ替えのために読んだ、高山なおみさんの『自炊。何にしようか』について語ってみることにする。

丁寧な暮らしというよりはハードコアな暮らし

料理家であり文筆家でもある高山なおみさんは、2016年より夫と別居し、絵本制作に集中するため神戸で一人暮らしをしている。レシピ本ってだいたい2人分の量が書いてあるが、『自炊。何にしようか』は「1人分」とか「作りやすい分量」とかで載っているので、私としてはそれがかなりありがたい。そもそも、表紙がラップに包まれた冷たいご飯だ。「誰かに見せるための食事」というよりは「自分が生きていくための食事」が多く載っており、また写真もほとんどは“映えて”おらずリアリティに満ちているので、ジョブズ・スタイルの食卓を愛する私は感銘を受けながら読んだ。

自分の「新・5種類のレシピ」に入れようと思った料理もたくさんある。レパートリーを増やしたいわけではないので厳選すると、小松菜のセイロ蒸しとか、ピーマンのワタ入りきんぴらとか、ひき肉かけご飯とか、きゅうりと青じその塩もみとか。私自身は作る予定はないが、高山なおみさんがもともとシェフなだけあって、本には腸に詰める自家製ソーセージの作り方なども載っている。凝りたい人は真似してみてもいいと思う。「自分の体の中にある腸と同じだと感じながらやると、豚腸の扱い方がわかる(p.286)」などと書いてあるのも、丁寧な暮らしというよりはハードコアな暮らしという感じですごくいい。