孤独と、それを認めたくないプライド
『B・Fとわたし』の主人公は、70歳の女性である。本人は声に自信があるらしく、「声だけは若い女だ」と自分では思っている。家具のセールスマンなどにもよく言い寄られるらしい。言い寄られることが多い、と自分では思っているのだ。主人公は、トイレの床を張り替えてほしいと業者に電話をかける。そしてやってきた業者の男がタイトルの「B・F」だ。2人の会話はまるで20代の男女が出会ってこれから恋愛に発展していくような口ぶりだが、実際は70歳の高齢女性とトイレの床を張り替える業者である。そのことに最後に気づき、少ししんみりする。
だけどルシア・ベルリンは、「若い女」のように振る舞う主人公を冷笑しているわけではおそらくない。きっと、誰しもが直面せざるを得ない孤独と、それを認めたくない無意識のプライドのようなものが、『B・Fとわたし』には書かれている。
『すべての月、すべての年』を読むと、寂しさはすぐそこにあるものなんだな、という感じがする。それは肩こりのようなもので、完全に解消するのはなかなか難しい。たまにストレッチをしたり、温かいお風呂に入ったり、筋トレを頑張ったりすると少しは良くなるだろう。でもデスクワークをすればまた逆戻りだ。ただ「そういうもの」だと思って付き合うと、逆に、少しラクになったりしないだろうか?
ルシア・ベルリンの短編は、肩こりのように付きまとう寂しさを、ポジティブな意味で諦めさせてくれる気がする。
Text/チェコ好き(和田真里奈)
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