傷つくのも、傷つけられるのも、うしろめたさも、それが「普通」

人はただ生きて呼吸をして食事をしているだけでウイルスをばら撒きかねない存在であり、同様に、ただ生きているだけで誰かを傷つけかねない存在である。『あなたに安全な人』を読んで思うのはそんなことだ。

できる限り感染症対策をして、できる限り様々な立場の人のことを想像して、そんな日々の努力は無駄ではないが、限界はある。開き直って無頓着になってしまうのはどうかと思うけど、傷つくのも、傷つけられるのも、うしろめたさがあるのも、問題を抱え込むのも、それが生きているということなのだと『あなたに安全な人』を読んで思えるといい。

本書は個人的には、バリバリ仕事をこなしつつ自分の抱えるうしろめたさに普段は目を瞑ってやり過ごしている人に読んでもらい「ウッ」となってほしい――が、やっぱりいちばんは、独身の人、現在事情によって金銭を得る仕事をしていない人、その他様々な問題を自覚しつつ生活している人が読むと、ちょっとだけ救いになると思う。なんというか、今の状態はおかしいのではなく、「それが普通」だと考えられるようになる。そして実際に交流してみると、思っていたより、お互い害のない存在であることに気づいたりするかもしれない。

閉塞感はあるが、希望がないわけではないのだ。

Text/チェコ好き(和田真里奈)